メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

[7]2025年のリーダー像を探る――堀江敦子

学生と家庭をつなぎ、「子ども」を通じて、社会を変えていきたい!

鈴木崇弘 城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授

 ワークライフバランスや女性の社会進出について、日本でも様々に論じられるようになっています。また、人口減少や少子高齢化による生産労働人口の減少の中、企業も様々な制度や仕組みをつくっています。こうした企業は急激に増えていくことが予想されます。
 他方で、制度や仕組みを活用する側がそれらをよく理解していなかったり、スキルやノウハウ、体験を十分に持ち得ていないことがよくあります。そのために、せっかくできた制度が十分に活かされないというのが現状です。
 堀江敦子さんが代表を務める「スリール」では、そのような課題を解決すべく、学生と家庭をつなぎ、長期的なキャリアを考える両立体験型プログラム「ワーク&ライフ・インターンシップ」を提供しています。これは、これまでありそうでなかった、非常にイノベーティブな事業で、2014年には経済産業省の「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を獲得しています。
 そこで、堀江さんに、この「インターン」と今後の展望そして実現したい社会などについて伺いました。 (聞き手=鈴木崇弘)

スキルと社会を動かすビジネスから

――堀江さんは、スリールを創業する前に、全く異なる分野の民間企業に就職されていますよね。大学のご専門も福祉系ですから、卒業後にそちらの分野に進む可能性もあったのではと思います。でもそうされなかったのはなぜですか?

社会ビジョン「仕事と子育てとの両立をポジティブに!」のフリップをもつ堀江敦子さん拡大自分の社会ビジョン「仕事と子育てとの両立をポジティブに!」のフリップを手にする堀江敦子さん
堀江敦子 私は物心ついたときから子どもが好きだったのですが、中学生の頃のジェンダーの授業で児童養護施設に行った時、一つの大きな衝撃を受けました。

 施設には、親のいない子どもがいると思っていたのですが、多くが虐待を受けている子どもだったことに、非常にショックを受けたのです。

 親になる前に「親になること」を学びながら、自分が親になった時にサポートをしてもらえる環境の必要性を強く感じました。

 この頃から世の中の構造を変えていきたいと考えていたのだと思います。

 また大学時代には、知り合いの女性起業家のお子さんをお預かりする機会がありました。生後1カ月半の子どものお世話をするだけではなく、仕事も見させてもらう、「起業家の(鞄持ちならぬ)ベビーカー持ち」をしました。

 私はこの方の仕事を見たことで、「親になること」と「仕事をすること」が、自分の中で初めて一致したのです。また、「仕事と子育てを両立するためには、まずは自分にスキルをつける必要がある」と感じるようになりました。

 このような経緯から、仕事を始めて3年目までにスキルをつけたいという想いと、社会を動かすビジネスについて学びたいという想いが重なり、前職のIT企業を選びました。しかしながらこの当時は、自分で起業しようとは思っていませんでした。

仕事と子育てのリアルを学ぶ場所

 入社4年目の2010年でしたが、会社で楽しく仕事はしつつも、このまま続けるべきか悩んでいました。当時の自分には、次のような3つの想い、やりたいことがあったのです。

・もっと先のことを考えて行動できる人を増やしたい。
・自分の「やりたいこと」を諦める人を減らしたい。
・子どもが多くの人々に見守られる環境を創りたい。

 ある日、自分の中でこの3つがつながったのです。

 自分のように、学生のうちに仕事と子育てのリアルを学ぶ場所があれば、子どもと向き合い、将来を考えるようになり、社会を変えていけると気付いたのです。そうして3つのことを同時に実現できるのが、退職後4カ月で起業したスリールで今行っている「ワーク&ライフ・インターンシップ」プログラムでした。

――大学生が、共働きをしながら子育てをする家庭に入り、子育て体験をしながら将来に体験するかもしれない生活を送ってみるプログラムですね。それは、まさに社会起業家の活動ですね。ところが、スリールは、NPOなどの非営利法人でなく、株式会社です。それはなぜですか。

堀江 それはこの活動を「意味があるもの」として対価を得たいと思ったからです。日本のNPOは、ボランティアというイメージが強く、NPOに対価を払わないという印象があります。それでは助成金をもらわないと事業を進めることができません。

 私は学生や家庭がプログラムに参加して、大変価値のあるものにすることで、プログラム内容で勝負していこうと考えたのです。そうしないとイノベーションは起こせないと考えました。

 あえて日本でスタートアップするからこそ、株式会社にしたのです。ただ、今後イノベーションを起こしやすい形が別にあれば、変えていこうと考えています。

家庭や企業にも多くのメリット

――それでは、そのプログラムの具体的な内容を教えてください。

堀江 このプログラムは、2名の大学生でペアを組んで行います。4カ月を1クールとし、40名程度の学生が参画します。子育て体験、座学・提案プレゼン、交流プログラムなどから構成されています。

 大学生が、実際に家庭を訪問して子育てを体験しながら、両立・子育てスキルを学び、自分の将来的なキャリアと子育ての両立について理解を深めていきます。

 参加ファミリーは、子ども1名につき月6回(計18時間、基本は平日夜)の受け入れで月3万5000円を支払います。学生は、事前研修費3000円と保険加入費300円を支払います。

 受け入れの条件としては、学生に自分たちの今に至るまでの話を赤裸々に語ってもらうことになっています。このことにより学生にとっては、親が子どものママ・パパではなく、1人のロールモデルとして見ることができ、受け入れ家庭との関わりや子どもへの対応も変わるのです。さらに受け入れ家庭には、プログラムの事前説明会を設け、学生を適切に受け入れられるための対応もしています。

 このプログラムは、学生のキャリア教育の場であるため、受け入れ家庭には、「次世代育成の実験場」であることも説明して、いろいろな負担も理解していただいているのですが、学生と兄弟のように楽しむ子どもを見て、「罪悪感なく仕事に取り組める」「学生と一緒に子どもが成長していく」など家庭にもメリットがある仕組みになっています。

 社会的に様々な制度はできていますが、社会の認識は変わっていないのが現状ですし、その解決方法も十分に提案されていません。

 そこで、スリールとしては、そのファースト・ミッションとして、「意識」を変えることを主眼に活動しています。現在は、B to C(Business to Customer)のビジネスモデルですが、今後はB to B(Business to Business=企業、行政、大学など)のモデルにしていくことで、プログラムの導入を広めていこうと考えています。大阪ガス、IBMなどともプログラムを開始する予定です。

 企業のワーキングマザーの家庭に、その企業を志望する大学生にインターンとして入ってもらい、育休復帰や、仕事と子育ての両立をサポートしてもらいます。そのことで、女性社員は残業もでき、仕事の面白さも思い出すことができ、マインドセットを変えられるようになります。今後は、中小企業などに対してもプログラムを展開していくことを考えています。

 企業にとっては、ワーキングマザーのモチベーションが高いまま継続的に雇用でき、新たな人材の確保、ダイバーシティ推進の発信に繋がるメリットもあります。

――そのインターンシップの成果はいかがですか。

堀江 20代女性の59%が専業主婦になりたいと考えているというデータがあります。詳しく聞いてみると、「働くのは大変」、「(両親とも働いていたのでは)子どもがかわいそう」というように、子育てしながら働くことにネガティブイメージをもっています。それは、自分の親などとしか接したことがないからです。

 ところが、インターンシップを経験した後になると、社会人になることが楽しみになるのです。そして仕事と子育ての両立の意識・自信が向上するのです。それは、このインターンシップを通じて、実際のロールモデルを見たり、自分で実体験できるからです。

 それにより、働くことへの意識や入社後の意識が変わり、さまざまな面で、自分の仕事や生活・子育てなどを守るための交渉ができるようになり、人生における価値観や将来イメージが明確になるのです。

 このプログラムは、特に目標もなく、なんとなく大学生活を送っている学生を対象にしています。スリールではそんな「もじもじ×もやもや」系統の学生が全体の60%を占めていると試算しています。彼らは主体的に行動を起こさないので、私たちのほうから大学に直接赴いたり、口コミを通じてプログラムに参加する対象者を探しています。

 このプログラムに参加する以前の学生は、「自分らしいワーク&ライフの実現」を目標にしているのですが、終了後は人生にはゴールがないことを自覚し、その時々で考えて決めていくことが良いことであるというマインドに変化する人が多いですね。自分の意識も、周りに揉まれて何をするかが明確になっていくわけです。

 他方、男子学生に目立つのですが、インターンをする前は、仕事がすべてと考えていたものが、その後になると人生には様々なチョイスがあることがわかり、もやもやし始めるようです。

子どもは他者理解の入り口

――実に面白いですね。堀江さんのお話を伺っていると、このインターンシップで行われていることは、従来の3世代家族のような、大家族の中で誰でも自然に経験していたことを学ぶような仕組みに感じたのですが。

堀江 そのとおりです。このインターンシップは、「多世代交流の仕組み」であり、核家族で、一家庭一子どもという現代の社会上における「疑似家族状況」を作り出すプログラムなのです。スリールを受け入れたファミリーは子どもを他人に預けることへの罪悪感もなくなり、ファミリーにも貢献しているのです。

――素晴らしいですね。スリールの今後、特に2025年に向けて、堀江さんは、どのような社会を目指していくことを考えていらっしゃいますか。

堀江 地域や大学で、子育てや働くことを学べるようにしたいと考えています。ロールモデルや相談相手も作っていきたい。最終的には、スリールがなくなることが理想です。最近は、管理職の子育てへの理解を促進するために、管理職向けのワーク&ライフ・インターンシップを実施してもらうということも、企業で始まっています。

 将来のことを考えるだけではなく、「他者理解」としてもこの体験が有効であるということを、知っていただきたいと考えています。

 他者理解の入り口が「子ども」だと思います。なぜなら、子どもが生まれると、次の世代のこと、戦争のこと、食のことなど様々なことを考えるようになり、行動するようになるからです。その入り口を体験することで、様々な人の状況を想像できるようになると考えています。

――本日は、ありがとうございました。

鈴木崇弘のコメント
 堀江さんのお話は非常に面白く、刺激を受けました。私たちは、時代や社会が変わっても、自分の育った環境や自分の経験に基づく観点から物事を考えがちです。でも、以前と同様のことを担保しようとすれば、当然に別の仕組みで対応していかないといけません。

 多くの学生や若い世代にとって、就職が大きな壁として立ちふさがっています。ところが、たとえそれを乗り越えても、次に結婚、家庭、出産、子育て、そしてワーク&ライフバランスなどという次なる難題が目白押しに、怒涛のごとくに現れます。これでは、若い世代は仕事に対しても家庭・子育てに対しても後手後手に回り、次を見越して積極的な将来展望を持つことが難しくなるわけです。

 そんな状況の中、堀江さんが颯爽と現れ、「ワーク&ライフ・インターンシップ」という新たなる仕組みを提案しました。まさにコペルニクス的発想で、若い世代に、先を見越した経験と理解とスキルを提供したのです。家族の多くが核家族化した現在だからこそ、社会的に「疑似家族」を形成して、失われた環境を提供し、将来経験するだろうことをさせて、若い世代に希望と可能性を提示しているのです。

 このプログラムから、社会や企業・大学などが学び、活かしていくべきことは非常に多く、今のワークライフバランス論議にも一石を投じているといえます。

 堀江さんは、明るく、前向きで、元気な素敵な女性。彼女の新たなる試みに注目していきたいところです。

(注)本インタビューは、PHP総研の「新しい働き方」研究プロジェクトの協力により実現しました。PHP総研に御礼を申し上げます。

堀江敦子(ほりえ・あつこ)
 日本女子大学社会福祉学科卒業。大手IT企業勤務を経て25歳で起業。2013年、日経ウーマン「次世代ガール25人」に選出され、「日経WOMAN」や「Oggi」などの雑誌にも取り上げられる。
 「働くこと」、「家庭を築くこと」をリアルに学ぶ「ワーク&ライフ・インターンシップ」の事業を展開。経済産業省「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を受賞。
 大学生を中心に展開しながら、リクルート「とらばーゆ」とコラボをして、社会人向けの子育て体験企画を実施するなど、ワークライフバランスをテーマに多くの講演・活動を行う。
 厚生労働省「イクメンプロジェクト」や「新宿区男女共同参画推進委員」、「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」など行政委員も兼任。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

鈴木崇弘

鈴木崇弘(すずき・たかひろ) 城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授

1954年生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センターやハワイ大学大学院等に留学。東京財団の設立に関わり、同財団研究事業部長、大阪大学特任教授、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり、同機関理事・事務局長などを経て現職。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。著書に『日本に「民主主義」を起業する――自伝的シンクタンク論』『シチズン・リテラシー』『僕らの社会のつくり方――10代から見る憲法』など。