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安田純平さんを救出するために(上) 動画の背景

いまなぜ、公表されたのか?

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 昨年(2015年)6月にシリアの反体制地域に入って行方不明になっているフリーランスジャーナリスト、安田純平さん (42歳)と見られる男性のビデオがインターネットに投稿された。

 私も安田さんとは会って話をしたことがあるが、髪や髭が伸びているものの、映像も声も本人と考えて間違いないだろう。

フェイスブックに投稿された安田純平さんと見られる人の動画の画像拡大フェイスブックに投稿された安田純平さんと見られる人の動画画像
 安田さんはシリア北部の反体制勢力支配地に取材で入り、イスラム過激派アルカイダ系の「ヌスラ戦線」に拘束されているといわれていたが、今回の動画で、武装組織に拘束されているのは疑いないことになった。

 ただし、この動画は、2015年1月に「イスラム国」(IS)が湯川遙菜さんと後藤健二さんを拘束し身代金を要求した動画とは違って、「ヌスラ戦線」が公式に発表したものではない。

 「ヌスラ戦線の代理人」と称するシリア人A氏が日本のテレビ局に送りつけたもののようだ。

 動画は1分12秒で、安田さんは英語で語っている。

 前半で「妻、父、母、兄弟を愛しています。あなたたちを抱きしめたい、あなたちと話がしたい。しかし、もうできない。私が言えることは、どうか体に気をつけてくださいということです」と語る。

 後半では、「私は、私の国に対して言わなくてはならないことがあります」と前置きして、手元のメモを読むように視線を落とし、「暗い部屋に座り、苦しんでいても、そこには誰もいない。答えるものもいない。応答するものもいない。目に見えないし、存在しない」と語った。

 後半の部分は、ヌスラ戦線側に言わされているとみられるが、日本政府に対して、どのようなメッセージを送ろうとしたのかは明確ではない。

日本政府へのゆさぶりか

 日本のメディアでの安田さん動画には2つの出処がある。

 代理人A氏から直接、動画が送られてきたとするのは日本テレビだけで、ほかの新聞、テレビは、代理人とは別のシリア人ジャーナリストB氏がインターネットのフェイスブックに投稿した動画をとっている。

 私もそのB氏に直接連絡をとった。

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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