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安田純平さんを救出するために(下) 政府の対応

突っ張る意味はなくなった

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 今回、ジャーナリストの安田純平さんがシリア北部に支配地域を持つアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」に拘束されていることを示す動画がインターネット上に掲示された。

 しかし、動画が出た後の政府の反応は鈍いと言わざるを得ない。人質問題では、日本政府の方針はいまなお、「テロ組織とは交渉しない」という米国の旧来の方針にとどまっている印象を受ける。

湯川さん・後藤さん事件の評価

後藤健二さんを悼む催しに集まった人たち=1日午後7時、東京都新宿区20160201拡大殺害されてから1年後に開かれた後藤健二さんを悼む催し=2016年2月1日、東京都新宿区
 人質問題での日本政府の対応は、「イスラム国」(IS)によって湯川遥菜さんと後藤健二さんが殺害された「邦人殺害テロ事件」の対応について、2015年5月に公表された「検証委員会の検証報告書」で詳述されている。

 ここでは「ISIL(「イスラム国」)との直接交渉」について、「ISILから政府に対する直接の接触や働きかけがなく、また、ISILはテロ集団であって実態が定かではないとの状況下、政府は、ISILと直接交渉を行わなかった」としている。

 さらに「イスラム国」と個人的なコネがあるイスラム学者の中田考氏が、日本外国特派員協会で記者会見して人質解放についての提案をしたことについて、報告書では「(中田氏は)日本政府がISIL支配地域に2億ドルの人道支援を行うという具体的提案を示し、日本政府が受け入れれば同提案をISIL側につなぐ用意がある旨述べた。しかしながら、中田氏の提案はISIL支援にもつながりかねないものであった」とし、「政府としては、中田氏の提案については受け入れなかったものである」と説明している。

 検証委員会の報告書は「事件は極めて残念な結果に終わったが、展開によっては、テロに屈して裏取引や超法規的措置を行ったと国際的にみなされる結果や、ヨルダン政府や同国民との関係に重大な影響を及ぼす結果となる可能性もあったが、全体としてみれば、取りうる手段が限られた中で政府はできる限りの措置をとり、国際的なテロとの戦いやヨルダン政府との関係で決定的な負の影響を及ぼすことは避けられたとの評価も有識者から示された」と評価している。

 日本政府の対応は、報告書でも示されている通り、「テロ組織とは交渉しない」というもので、ISとのパイプを持つ中田氏の提案についても「ISIL支援にもつながりかねない」として拒否した。

 検証委員会の報告書は、湯川さん、後藤さんがISに殺害されたことについて、「政府の対応の失敗」という認識は薄く、二人の解放のために政府がどのような対応をしたのか、またはすべきだったのかなどは十分に究明されていない。

 結果的には、人質解放に至らなかった問題点は脇に置かれ、解放に向けた交渉などをしていないことをもって、「国際的なテロとの戦いへの負の影響を及ぼすことが避けられた」と評価する結論となっている。

 国際的にはフランスやドイツ、スペイン、トルコなど政府が身代金の支払いも含めて人質解放に力を入れる国がある中で、日本政府が湯川さん、後藤さんの人質事件で、「ISと交渉しない」と強硬な姿勢をとったのは、 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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