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[2]被災者のニーズが伝わる市町村に権限を

永井幸寿 弁護士、日本弁護士連合会災害復興支援委員会前委員長

「国は後方支援すべきだ」と首長はいった

津波に襲われた平薄磯地区では、家の土台だけが残り、がれきが散乱していた=2011年4月10日、福島県いわき市拡大津波に襲われた平薄磯地区では、家の土台だけが残り、がれきが散乱していた=2011年4月10日、福島県いわき市

 災害時には、政府に権力を集中しなければ災害に対処できないという意見がある。

 本当にそうだろうか。

 平成27年7月から9月まで、日本弁護士連合会は、被災3県(福島、岩手、宮城)の市町村長にヒアリングを行い、また、8月にこの市町村37にアンケートを実施し、24自治体から回答を受けた(回答率65%)。ここで災害対策についての市町村と国との役割分担について質問した。

 災害対策基本法では災害対応の第1次的な権限責任は市町村が負うことになっている。都道府県がこの後方支援を行う。国はさらにその後方支援を行うという構造である。

 そこで、市町村の権限を強化すべきか、現状維持か、権限を軽減すべきかを尋ねた。25%が権限を強化すべきであると回答し、71%が現状維持、権限を軽減すべきであるとしたのはわずか4%であった。

 首長にヒアリングしても、市町村に主導的な権限を与え、国は後方支援すべきだと述べている。

被災者のニーズが直ちに伝わるのは市町村だ

 災害には顔があると言われる。

 阪神・淡路大震災では死者の80%が圧死だった。関東大震災では死者の80%が焼死だった。東日本大震災では死者の80%以上が溺死だった。

 同じ災害は二つとない。被災地が山間部か、都市部か、沿岸部か、災害が雪害が、地震か、噴火災害か等によって災害はまったく異なる。

 また、同じ災害でも被災者のニーズは時間の経過によって、72時間以内、1か月以内、3か月以内と異なってくる。このニーズが直ちに伝わり、これに対して最も効果的な支援が迅速に行えるのは国ではない。被災者に最も近い自治体である市町村である。

 むしろ、国が担当すると、公平性や画一性が求められることにより妥当性を書くことになる。

 東日本大震災で浪江町の町長が述べていたが、津波で流された住民を救助に行ったところ夜になったので、声が聞こえることから明日助けに来ると言って撤退した。ところが翌朝、内閣総理大臣が原発を中心に同心円で10キロに避難指示を出した。現地では線量が低く安全だったにもかかわらず、被災者を目の前にして見殺しにすることになったのである。

国の後方支援とは何か

震災で倒れた住宅。時計は本震の午前1時25分で止まっていた=4月22日、熊本県益城町宮園地区拡大震災で倒れた住宅。時計は本震の午前1時25分で止まっていた=4月22日、熊本県益城町宮園地区

 では、国の後方支援とはなにか。

 人(専門性のある人材、職員)の派遣、物資の供給、そして何よりも予算を認めることである。

 首長が口をそろえて言うのは、予算の裁量権を認めてほしいということである。また、平常時の法律制度とその運用によって、市町村の企画が実施できないということである。

 市町村は国との折衝に膨大な労力と時間を費やし、結局できないことも多い。首長はこの時間を住民に対して費やしたいのである。

 これについて、ある市が国の管理職職員を市の副市長として常駐させたところ、この職員が国から予算をとるための作法を教えてくれ、また、省庁に言って自治体の状況を伝え、また、自治体に帰って国の方針を伝えて、自治体の主導に対する国の後方支援をスムーズにしていた。

 国が行うのはこのようなシステムをバックアップすることであり、政府に権力を集中することではない。

96%の自治体が「憲法は障害にならなかった」と回答

 また、東日本大震災で憲法が障害になったという憲法学者人がいる。

 しかし、前記の自治体のアンケートで「憲法が障害になりましたか。なったとすれば具体的にどのような事例ですか。憲法の何条が障害になりましたか」と質問したところ、96%が障害にならなかったと回答した。

 障害になったと回答した4%(1自治体)は、財産権について、がれきの撤去で障害になったと記載があった。しかし、前回書いた通り、日本国憲法は財産権の内容は公共の福祉のための法律で一定の制限は認めており、これ以上改正する必要はない。

 また、がれきの撤去は災害対策基本法64条2項で所有者の同意なく実施でき、場合によっては破壊することができる。また、市場価値がなければ廃棄できる。憲法問題ではない。

 憲法が災害対策の障害にならないことは、政府の「東京電力福島原子直発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告書を見れば明らかである。

 同法報告書は事故原因とその対策について記載しているが、原因について憲法が障害になった旨の記載はない。むしろ、非常時の防災計画の策定や防災訓練を実施すべきだったとしている。

 また、対策として、憲法を改正することはもとより、政府に権力を集中することも、人権を大幅に制約することも書いていない。むしろ、住民の避難計画とその訓練は、放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して、県と関係市町村が連合して実効性のある体勢を構築すべきであるとしている。

 また、国会の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」の報告書にも、原因として憲法が障害になった旨の記載はない。また、対策としては、原子力規制法の改正が提言されている。

 つまり、憲法の改正ではなく法律の改正が必要である旨述べているのである。権力の集中や人権の大幅な制約の提言はない。むしろ、新しい規制組織を提言しているが、これには政府からの強い独立性を求めており、政府への権力集中とは真逆の提言を行っている。このように、憲法が障害になった事実は存在しない。

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筆者

永井幸寿

永井幸寿(ながい・こうじゅ) 弁護士、日本弁護士連合会災害復興支援委員会前委員長

1955年生まれ。NPO法人災害看護支援機構監事。共著に『災害救助法』徹底活用」「Q&A震災と相続の法律相談」など。