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アメリカの若者の国家観は親の世代とは大違い

グローバル市民化する若者たちと国際政治

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

 11月の大統領選に向けて、民主、共和両党の候補者指名争いが終盤戦にはいったアメリカ。過去50年間で最も予想が難しいと言われる中、有権者動向として注目されているのは、低所得で教育水準の低い白人男性達と、ミレニアル世代と呼ばれる20代から30代前半の若者達の、2つのグループだ。前者は、共和党で現在首位を走るドナルド・トランプ氏の主要支持層で、後者は、民主党のバーニー・サンダーズ上院議員の予想外とも言える健闘ぶりの原動力となっている。

 この後者の若者グループを対象とした意識調査が、興味深い結果となっている。

 「The Attitudes and Priorities of the Snapchat Generation 」で、日本語に訳せば「スナップチャット世代の意識と優先事項」という感じだろうか。

http://www.luntzglobal.com/wp-content/uploads/2016/02/Snapchat-Generation-Release.pdf

社会主義が一番人道的な政治システム

 これは、世論調査の教祖的存在であるフランク・ルンツ(共和党系)による調査で、対象となったのは、18歳から26歳の学生や新社会人たち。大統領選挙に投票するのは今年が初めて、もしくは2度目、という年代層である。

 調査期間は、2月11日から14日で、「もし、今日、大統領選挙が行われたら、誰に投票するか」という質問に、最も多くの45%がバーニー・サンダーズ氏と答え、2番目の19%がヒラリー・クリントン氏と答えた。

 支持政党については、自分が民主党と考える若者は44%、共和党は15%。特定の政党を支持しないとする独立の立場は42%で、浮動層の割合が、民主党に続く形でかなり高い。

 関連して、「どの政治システムが最も人道にかなっていると考えるか」という質問には、58%が社会主義、33%が資本主義、9%が共産主義を選んでいる。

 自分を「民主社会主義者だ」と公言するサンダーズの若者人気を考えれば、ここまでは予想通りと言えよう。

アメリカはもはや普通の国

バーニー・サンダース氏拡大バーニー・サンダース氏
ドナルド・トランプ氏拡大ドナルド・トランプ氏

 注目すべきは、世界におけるアメリカの立場についての見方だ。

 「アメリカは特別な国。世界中のどの国よりも優れている」と見るのは、回答者の42%。それを上回る58%の若者は、「アメリカは、他の国々と比べて、特に優れても劣ってもいない」と答えた。

 これについて、意識調査の報告書は、「ドラマチック」な結果だとして、「大統領選に投票するのが今年初めてか、もしくは2回目という若者達の10人のうちのほぼ6人が、アメリカが卓越した国であるという考えを、あっさり否定している」と強調。「これは彼らの親世代の見方と大きく違う」と解説する。

 筆者は現在アメリカの大学で、「国際機関とグローバルガバナンス」、「日米中関係」といった国際政治関連のコースを教えているのだが、クラスでの学生達のディスカッションを振り返ると、確かに、この結果はおおむね正確だと感じる。

 これが意味することは、今後、この若者達がアメリカ社会の主流世代となっていけば、これまでアメリカの外交政策に大きく影響していた「アメリカ例外主義」—アメリカは世界においての特別な国で、民主主義と自由を基盤とした世界秩序を実現するための例外的なリーダーを担う役割を持つ—を支持する人達が徐々にマイノリティーになる、ということ。

 従って、オバマ外交に既に見られる、「アメリカは世界の警察官ではない」、「背後からリードする(leading from behind)」という考え方がさらに顕著になり、アメリカ外交はさらに消極的で受け身型(あくまでもこれまでのアメリカ外交と比較してだが)となることが予想される。

アメリカ国民からグローバル市民に

 さらに興味深い結果は、彼らアメリカの若者が、自らのアイデンティティーをどのように認識しているか、という部分に現れた。

 なんと3分の1以上のアメリカの若者達は、自分自身のことを、アメリカ人というよりは、グローバル市民、と考えているのだ。

 もう少し説明すると、この設問は二者択一の形で、「自分自身のことをどちらにより近く考えるか」という質問に対して、「アメリカ国民」か「世界の市民」のどちらかを選ぶ。その結果、65%が「アメリカ国民」と答えたのに対し、35%は「世界の市民」という立場を選んだのだ。

 これについて、報告書は、アメリカと世界の根本的なあり方に関してのアメリカ若者達の考え方は、彼らの両親や祖父母達の考え方から「ラディカル」に変化していると解説し、今のアメリカ若者の動向をまさに象徴する結果だと強調。つまり、これまでのアメリカ人なら、当然、まずは「アメリカ国民」と自分自身のことを認識していたのに、若者達の間では、それが当然ではなくなっている、ということである。

 ちなみに、この「アメリカ国民よりもグローバル市民である自分」という傾向は、年齢が若いほど顕著になっている。前述のように、この調査は18歳から26歳を対象にしているが、そのうちの18歳から21歳に絞った結果を見ると、42%が「世界の市民」と答えているのだ。4割以上である。

「グローバル市民」で戦争が無くなる?

 アメリカの若者達が、自分自身のことをグローバル市民と考え始めているという現象。日本で聞いている限り、ちょっと漠然としていてピンと来ないかもしれないが、国際政治学から見ると、大きな意味がある。というのは、「各国で、自分のことをグローバル市民と考える人達が主流派になれば、国家間の武力紛争は根本的に無くなる」という考え方が、国際政治学の中で一つの理論として確立しているからだ。

 この理論—集団アイデンティティ理論—は、90年代の半ばに、アメリカの国際政治学界で登場して(ちなみに欧米では、国際関係論学と呼ばれている)、大きな議論をよんだ。理論構造の詳細を紹介することはここでは出来ないが、簡単に言うと次のようになる。

 「国際関係の最大の問題は、それぞれの国が、お互いのことを、根源のところで『潜在的な脅威—将来の敵—』と見ていること。たとえ同盟を結んでいる相手に対しても、同盟は永遠に続くものではないから、潜在的脅威の意識はやはり存在する。この見方が続く限り、軍備競争や戦争は決して無くならない。ということは、逆に、この『他国は全て潜在的脅威』という考えそのものが無くなれば、必然的に、軍備競争や戦争も無くなる」

 「では、どうすれば、他国のことを潜在的脅威と見なさなくなるのか?答えは、それらの国々とアイデンティティーを共有してしまうこと。もし、アイデンティティー=「自分は何である」という概念=を共有すれば、お互いの運命が一体化してしまうので(あなたの運命は、私の運命。私の利益は、あなたの利益)なので、その状況では、相手はもう「脅威」の対象とはならないからだ」

 この流れで出て来るのが、先のグローバル市民である。

 何故なら、世界の国々がアイデンティティーを共有するということは、これまでの国家別のアイデンティティーを越え(国別だと共有出来ないので)、皆に共通した集団アイデンティティーを持つということ。その集団アイデンティティーとは、国際社会という集団の一員という概念、つまりグローバル市民アイデンティティーに他ならないからだ。

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筆者

芦澤久仁子

芦澤久仁子(あしざわ・くにこ) アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

ワシントンDC在住。東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。テレビ東京勤務後(ニュース番組制作等担当)渡米。2005年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程(国際関係論)を終了し、英国オックスフォードブルックス大学(准教授)を経て2012年から現職。また、米国ウッドローウイルソン国際学術センター、東西センター、ライシャワー東アジア研究所に招聘研究員として滞在。主な研究分野は日本外交、日米関係、アジア地域機構、グローバルガバナンス。研究論文は、International Studies Review, Pacific Review, Journal of Peacebuilding and Development等の英文学術誌および編著本に多数発表。著書、Japan, the U.S. and Regional Institution-Building in the New Asia: When Identity Matter (Palgrave McMillan)が、2015年度大平正芳記念賞を受賞。

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