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 私は2012年3月に日本に戻ったが、2013年6月に再度カイロに駐在することになった。

 赴任後すぐの6月30日にムルシ政権に反対する大規模なデモがタハリール広場で起こった。このころ私はツイッターで情報を発信し始めていたが、1回最大140字までなので、詳しい説明はできない。その時々のメモのようなものだが、反ムルシデモ前日の6月29日のツイートは次のようなものだ。

<カイロは明日の反政権デモを前に息を凝らしている。街角にはムルシ大統領にX点をつけた反対派ポスターや「通りに出ろ」という標語が目立つ。しかし、人々に「反ムルシ」の空気が盛り上がっているとも思えない。荒れないことを祈る思いが強いだろう。>

 30日にタハリール広場の反ムルシ集会を見た後のツイートは次のとおり。

<タハリール広場を見てきました。人は集まってきています。最終的には10万人になる勢い。「政権打倒」を唱えていますが、警察や治安部隊と対峙しているわけではないので平和な市民集会という感じ。いまのところ緊張感はなし。政府批判デモに警察や軍が出なければ体制が危機に陥ることもないでしょう。>
<今日のタハリール広場で「民衆は体制崩壊を求める」という標語が叫ばれていましたが、デモ隊を制圧する警官がいなくて、政府批判が自由にできれば、デモ隊がいくら大規模に集まっても、それが体制崩壊にはつながらない、ということでしょう。ムルシ政権への批判はあるが、エジプトも変わったと思う。>

2013年6月、当時のモルシ大統領の顔に×をつけ、デモを訴えるポスター拡大2013年6月、ムルシ大統領(当時)の顔に×をつけ、デモを訴えるポスター=撮影・筆者
 30日の反ムルシ政権デモは大規模ではあったが、2011年1月末以来、様々な節目で繰り返されてきた大規模デモの一つという印象で、政変につながるような切迫感はなかった。

タハリール広場の変化

 夜のタハリール広場では盛んに花火が打ち上げられて、まるでお祭り気分だった。

 広場の雰囲気を見ていて、それまでのデモとは異なる二つのことに気づいた。

 一つは会場に若者たちが演説するステージがなかったことである。昼間、「広報担当」を名乗る若者に、「なぜ、ステージがないのか」と聞いたところ、「みんな、ムルシの退陣を求めていることでは同じなので演説する必要がないのだ」という説明だった。

 もちろん、そのような説明には何ら説得力はない。2011年の反ムバラクデモも、ムバラク辞任を求めるという主張では共通していたが、ステージでは、様々なグループやその指導者が、それぞれの主張を、ある者は論理的に、ある者は熱狂的に、ある者は宗教者として主張していたのである。

 それが今回、ステージがないということは、あとから考えてわかったことだが、個々の主張を排除するという統制の動きだったのだ。

 もう一つの特徴は、明らかに富裕層と分かる人々が広場に陣取っていたことである。サングラスをかけ、スマートフォンを持ち、いかにもといったヨーロッパのブランド物の服を着た人々である。富裕層だと思ったのは、彼らは広場に出ている屋台のカフェで料金が高くなる折りたたみ椅子に座っていたからだ。

 ムスリム同胞団系のムルシを排除しようとするデモだから、旧ムバラク政権時代に優遇されていた富裕層が大挙してデモに参加するのは当然のことではあった。しかし、2011年2月のムバラク辞任の後、2年半にして初めて、旧政権系の人々が表に出たことになる。

 タハリール広場での反ムルシ政権デモは平穏に行われたが、エジプト軍は7月1日に声明を発表し、「政府が48時間以内に国民の要求に応えなければ、秩序回復のため介入する」と通告した。私はその後で、こうツイートした。

<エジプトの政治危機と言っても、いまのところ政権に不満を持っている人々が平和的なデモをしているだけなのに、軍が48時間の期限をつけて、政治の世界に介入してくるというのが、理解に苦しむ。>

ムルシ大統領を軍が排除

 軍が介入してきたことで、状況は一変した。 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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