なぜ「イラク戦争公聴会」を始めたか
2016年06月10日
5月31日、第一回イラク戦争公聴会を開催した。日本がイラク戦争を支持・支援したことや、自衛隊イラク派遣、そしてイラク戦争からみて安保法制にどのような問題があるのか、市民と超党派の国会議員による検証の場である。来月上旬にはイギリスでのイラク戦争検証の最終報告書も公開される。安保法制が施行され、この夏の参院選でも憲法改正が重大テーマとなるだけに、米国の戦争に無批判に追従していくことをの是非を問いたい。
筆者がイラク戦争の検証のための公聴会を呼びかけたのは、昨年末のこと。筆者は、2009年ごろからイラク戦争の検証の必要性を訴えてきたが、昨夏の安保法制審議での政府与党の答弁があまりにひどくおそまつであるばかりか、戦争の実態やその被害について、まったく考慮されていないことに、強い危機感を抱いたことが、公聴会を行おうとした直接のきっかけだ。
イラク戦争については、オランダが2010年に検証を行い、約500ページの報告書をまとめた。この検証では、国連安保理での武力攻撃容認決議なしのイラク戦争が、国連憲章に反する違法なものだと指摘し、オランダ政府はイラク戦争支持を撤回した。
また、イギリスでも2009年に政府が独立の検証委員会を設置。トニー・ブレア元首相らを喚問して証言させ、さらに開戦前後の機密文書を次々に開示。開戦の根拠とされた大量破壊兵器情報について過剰にその脅威を煽(あお)っていたことや、国際法上の問題を当日の政府の司法長官から指摘されながら、ブレア元首相がそれを無視していたことなどが明らかにされた。
イラク戦争を始めた当のアメリカですら、2004年と2006年に上院情報特別委員会で検証を行い、イラク攻撃の最大の口実としていた大量破壊兵器情報の誤りを認め、旧イラク政権がアルカイダと共に米国等への攻撃を企てていた疑惑も否定した。
他方、日本では2012年末、外務省が検証を行ったが、公開されたのは、概要のみで、たったA4用紙4枚という薄さに加えて、内容も当時の日本政府の対応を正当化するものでしかなかった。昨年の安保法制審議でも、安倍晋三首相は「大量破壊兵器を所有していないことを証明できなかったイラクが戦争を招いた」と発言。大義なき戦争であったイラク戦争を支持・支援した反省もなく、安保法制によって、米国が主導する戦争に自衛隊も参加して戦争の当事者になる危険性が現実味を帯びてきた。
こうした危機感を同じくする、日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事やイラク支援ボランティアの高遠菜穂子さん、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会の高田健さんらと相談し、イラク戦争公聴会を立ち上げることにした。外務省や防衛省の官僚などを呼び出すために、近藤昭一衆議院議員や井上哲士参議院議員、山本太郎参議院議員など超党派の国会議員らにも参加してもらい、全面的な協力を得ている。
イラク戦争公聴会では、学資経験者やNGO関係者などからなる検証委員が、当時の政府関係者や外務・防衛官僚を呼び出して質疑を行うほか、イラクの状況や国際法、憲法などについて詳しい専門家を証言者として、意見陳述してもらうことを計画している。公聴会は1、2カ月に一度くらいの頻度で、イラク戦争支持の是非や自衛隊イラク派遣など各テーマについて複数回実施し、テーマごとにその分野に明るい検証委員の追加や入れ替えを行いながら、1~2年後に検証の報告書を取りまとめる予定だ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください