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アメリカから見た日米地位協定

日本はそれでも協定改定のための外交努力をすべきである

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

 沖縄で、再び、米軍関係者による痛ましい犯罪事件が起きた。20歳の会社員女性が暴行、殺害され、米軍嘉手納基地で働く元海兵隊員の米軍属の男が逮捕された。沖縄の住民、そして基地問題専門家らは、一様に、1995年の海兵隊員による12歳の少女のレイプ事件に触れ、20年余を経ても依然として同様の悲劇が繰り返される状況への怒りを隠さない。

 私は、沖縄出身でも、基地問題専門家でもないのだが、今回の事件を受けてまず思い起こしたのは、やはり、1995年の少女レイプ事件だった。当時、ボストン郊外にある大学院で国際関係論の勉強を始めたばかり。はからずも、アメリカで聞く事になった、日米関係に関する最初の大きなニュースとなった。

駆け寄って謝罪に来た米軍の幹部候補生

キャンプ・ハンセンのゲート前を歩く米軍関係者。真っ暗な街の様子を見回して、すぐに基地に戻っていった=6月7日、沖縄県金武町拡大キャンプ・ハンセンのゲート前を歩く米軍関係者。真っ暗な街の様子を見回して、すぐに基地に戻っていった=6月7日、沖縄県金武町

 二つのことを今でも鮮明に覚えている。

 一つは、その大学院に、私と同様に学生として来ていた米軍関係者達の反応。アメリカの国際関係専門の大学院の常で、アメリカ各軍の幹部候補オフィサーが10人近く修士号や博士号取得の為に派遣されていたのだが、まだクラスメートになったばかりの彼らが、入れ代わり立ち代わり、「本当にひどいことが起きてしまって申し訳ない。残念に思っている」と言いにきたのだ。廊下の向こう側にいる私を見つけて、わざわざ駆け寄ってくる形で。

 軍の中のエリートである彼らは、大学キャンパスでは、軍人のみならず「外交官」としても振る舞うようにトレーニングされているので、「ああ、仕事としてやっているのだろうな」とは思ったが、同時に、その態度や表情から、真摯なものを感じたことも事実である。

 さらに付け加えるならば、私がとっていた「安全保障:武力の行使」という授業を教えていた教授までもが、クラスの後に、私の席まで来て「本当に残念なことだ」と話してくれた。この教授は、米国防省や米軍組織にアドバイザーとして関わっていたので、あたりまえといえばあたりまえなのかもしれないが、「大学の教授が、謝るの?」と驚いたことを記憶している。

 二つ目は、その様子を見ていた、韓国人のクラスメートの一言。お互い、大学院に入る前に、自国のメディアで働いていたこともあって、入学後すぐに仲良くなった学生だったのだが、まるで競うようにして「遺憾の意」を表明する米軍人達を見て、「韓国では、こんな米軍人がらみの事件は、それこそ日常茶飯事のように起きているのに」と、私にささやいた。

 東京出身で、米軍基地の存在を身近に感じたこともなく、まだ国際政治の勉強を始めたばかりだった私は、この2つのことを、そして沖縄基地問題のことを、どのように理解すべきなのか、当時、正直言ってわからなかった。

 それから20年余。改めて、これらのことについて考えてみたい。

迅速に対応した日米政府

 今回の元海兵隊員の逮捕に対する、日米両政府の対応は素早かった。

 日本側は、米大使館、在日米軍、国防総省などに対して強く抗議し、米側は、オバマ大統領を含めた関連組織のトップが謝罪、もしくは強い遺憾の意を表明。在日米軍は、「哀悼期間」を設けて綱紀粛正に努め、さらに、その後、海軍2等兵曹が飲酒運転で人身事故を起こしたことを受けて、米海軍兵の基地内外での飲酒を禁止。双方とも、今後、このようなことが2度と起きないように最善の努力をすることを表明するとともに、長年問題となっている「日米地位協定」の軍属に関する運用改善の協議を始めることを決めた。

 アメリカ側の謝罪は、まさに、21年前の米軍士官達のマナーを思い出させるものだった。迅速で完璧な外交面の危機管理対応。同時に、迅速対応で、とにかく早急に事態の収束を目指す、という両国政府の意図もかなり露骨に感じられた。

 翁長知事率いる沖縄県側は、これらの対応に納得せず、今月19日には那覇市内で県民大会を開催。約6万5千人が参加し(主催者側発表)、1995年の県民総決起大会に次ぐ大規模な抗議集会となった。

地位協定の改定を求める沖縄

 沖縄県側は、なぜ、納得しないのか?

 もちろん、辺野古移設問題や米海兵隊撤廃要求などを含めたこれまでの経緯が背景にあるのだが、同時に、彼らが、「日米地位協定」の抜本的な見直し・改定—単なる「運用改善」ではなく―を求めていることが大きい。というのも、前述にあるように、日米政府は「運用改善」の協議を持つ事を合意したのだが、実はこれまでも米軍不祥事のたびに「運用改善」が行われており、それにも関わらず、米兵の犯罪が後を絶たない、という事実があるからだ。

 「地位協定」とは、日本に駐留する米軍人、軍属、その家族達の地位や、米軍による施設や区域のあり方を定めるもので、1960年に締結されている(その前身は、1952年に締結された日米行政協定)。この協定の根幹は、在日米軍に日本の国内法が適用されないということ。このため、公務中に犯罪を起こした米軍兵士を日本の警察が逮捕出来ない、公務外でも基米軍基地内にいる限り逮捕出来ない、基地外で米軍が事故を起こした際に(ヘリコプター墜落等)日本側の捜査が極端に制限される、など、数々の問題点が指摘されている。

 今回の事件では、容疑者が現役米軍兵士ではなく、軍属と呼ばれる、米軍に雇われているアメリカ国籍の民間人であり、なおかつ、公務外での犯罪で逮捕時に基地の外にいたために、沖縄県警が逮捕することが出来た。その意味では、地位協定の問題に直接つながるわけではないのだが、基地問題に苦しむ人達にとっては、地位協定のよる法的特権が存在すること自体が、米軍関係者による犯罪が繰り返される大きな要因であり、結果、今回の事件もその延長上の問題なのである。

地位協定に内包される「不平等性」

 さらに多くの沖縄の人々、そして、今の米軍基地のあり方に疑問を持っている専門家や活動家達が、根本的な問題とするのは、地位協定に内包される明白な「不平等性」である。

 彼らは、日本は、世界第3の経済大国であるにも関わらず、いまだ「対等に扱われておらず」、地位協定のために「まるで属国」「米国従属」「主権国家でない」状態にある、と強調する。そして、ドイツやイタリアなどにおける米軍の地位協定と比べて、日本の地位協定の不平等性が高い部分があると指摘し、その点から考えても、協定の改定に取り組むべきだ、と主張する。

アメリカは協定改定に向け動き出すか

 では、この日米地位協定を、アメリカはどのように見ているのか? 実際、協定改定に動き出す可能性はあるのだろうか?

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筆者

芦澤久仁子

芦澤久仁子(あしざわ・くにこ) アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

ワシントンDC在住。東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。テレビ東京勤務後(ニュース番組制作等担当)渡米。2005年にタフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程(国際関係論)を終了し、英国オックスフォードブルックス大学(准教授)を経て2012年から現職。また、米国ウッドローウイルソン国際学術センター、東西センター、ライシャワー東アジア研究所に招聘研究員として滞在。主な研究分野は日本外交、日米関係、アジア地域機構、グローバルガバナンス。研究論文は、International Studies Review, Pacific Review, Journal of Peacebuilding and Development等の英文学術誌および編著本に多数発表。著書、Japan, the U.S. and Regional Institution-Building in the New Asia: When Identity Matter (Palgrave McMillan)が、2015年度大平正芳記念賞を受賞。

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