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ISは弱体化しているのになぜテロが激化するのか

ISは「組織」ではなく「運動」。ISの真の脅威は「ジハード(聖戦)思想」の拡散だ

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 バングラデシュの首都ダッカで起きたイスラム過激派によるレストラン襲撃事件は、日本人7人が殺害され、大きな衝撃を与えた。過激派組織「イスラム国(IS)」が声明を出したことで、日本にとっては昨年(2015年)1月の湯川遥菜さん、後藤健二さん殺害事件の悪夢をよみがえらせる事件だった。

犠牲者の写真がつり下げられていた。献花する地元の住民は後を絶たない。警察は周辺の警戒を続けている=6日午後、ダッカ20160706拡大日本人、イタリア人、バングラデシュ人、インド人など犠牲者の写真が掲示されたテロ現場=2016年7月6日、ダッカ
 しかし、世界に目を向ければ、昨年11月のパリ同時多発テロ事件、今年3月のブリュッセル連続テロ事件があり、さらに6月下旬以来、トルコ、バングラデシュ、イラク、サウジアラビア、と4件立て続けにIS絡みのテロ事件が起きている。

 ISの支配地域では米国が主導する有志連合が空爆を続けており、シリア側の首都ラッカに対しては米軍の支援を受けたクルド部隊を主体とする掃討作戦が続いている。

 一方、イラク側では米国とイランがイラク政府を支援して、ISの掃討作戦を続け、6月下旬にはバグダッド西方60キロのファルージャを2年半ぶりにISから奪回した。

 ISは攻勢を受けて支配地域が縮小し、弱体化していると報じられている。しかし、この状況でなぜ、IS絡みの大規模なテロが、欧米やサウジアラビア、さらに今回のバングラデシュなど離れた場所で起こるのだろうか。

 最近のテロをまとめると次のようになる。

▽6月28日、トルコのイスタンブール国際空港での銃撃と自爆テロで44人が死亡
▽7月1日、ダッカの高級住宅地で武装した集団がレストランを襲撃し、日本人7人を含む22人が死亡
▽7月3日、バグダッド(2か所)での自動車爆弾によるテロで200人以上が死亡
▽7月4日、サウジアラビアの聖地メディナの「預言者のモスク」で自爆、治安部隊員4人が死亡

 ISの犯行声明が出たかどうかで考えれば、パリとブリュッセルの事件では声明が出た。最近の4つのテロでは、ダッカとバグダッドのテロでは犯行声明が出ているが、トルコとサウジアラビアでは出ていない。

 ただし、トルコの事件についてトルコ政府はISが関与しているとし、政府筋の情報として、実行犯3人はISのシリアの中心都市ラッカから来たロシア人、ウズベキスタン人、キルギスタン人で、ラッカから1か月前にトルコに入ったとしている。

ISの犯行声明にある「情報」

 私はパリやブリュッセル、今回のダッカ襲撃事件など、IS支配地域から離れた場所で起こるテロについては、インターネット上でISの犯行声明が出たとしても、ISが直接指令を与えたものではなく、ISに共感する現地のイスラム過激派がテロを実行していると見ている。

 そのように考える一つの理由は

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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