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銃撃して自爆、ISの新戦術「突撃攻撃」の意味

凶暴化するテロは、中東の戦争状況の悪化を反映している

川上泰徳 中東ジャーナリスト

自爆者と突撃者の違い

 ダッカ事件では「22人を殺害した」とする過激派組織「イスラム国(IS)」によるアラビア語の声明が出た。それがISによるテロの「犯行声明」とは言えないことは、前稿ですでに書いた。

 私は声明の表題「至急報:バングラデッシュのダッカでの突撃攻撃で、十字軍の国民と警官の22人を殺害」に、「突撃攻撃」(フジューム・イングマーシー)という聞きなれないアラビア語が出ていたことに注目した。この言葉をインターネットのアラビア語サイトで調べていくと、ISが編み出した新たな戦術が浮かび上がってきた。

襲撃テロが発生したレストラン拡大ダッカの襲撃テロが発生したレストラン=2016年7月8日
 シリアとレバノンに拠点をおくインターネットニュースサイト「ハダス・ニュース」に「自爆者(インティハーリー)と突撃者(イングマーシー)の違いは何か」という記事があった。

 それによると、「突撃攻撃はテロ定義辞典に新たに入ってきた用語」とあり、次のように説明している。

 「突撃者とは高度に有能な戦闘員のことであり、自爆ベルトを着用し、銃を装備している。銃弾が尽きるまで銃撃し、その後、必要とあれば自爆する。自爆者や殉教者(イスティシュハーディー)は、自爆ベルトだけを身に着けるか、(爆弾を積んだ)車を運転するか、爆発装置を付けて、交戦することなく敵の陣地に入って爆発させる。……アルカイダ寄りのサイトによると、突撃とは戦闘のなかで、自ら犠牲にして敵の中に飛び込んで戦い、味方の戦士たちの戦いに勝利への道を開く……」

 まるで、旧日本軍の特攻作戦を思い起こさせるが、「突撃」という言葉は「イラクとシリアのアルカイダが出現して、出てきた」としており、ISやアルカイダのシリア支部であるヌスラ戦線の戦術としている。

 突撃攻撃とは、銃撃をして自爆する戦術のことだと理解してよいだろう。その意味ではダッカ事件は銃による襲撃だけで、自爆を伴わないので、厳密には「突撃攻撃」にはあたらない。ISでも「突撃」の意味がすでにあいまいになっているのかもしれないが、文字通り、銃撃と自爆の両方を使ったテロが初めて行われたのは、2015年11月のパリ同時多発テロだった。

 テロ実行犯は全員が自爆ベルトを巻き、劇場を襲撃したグループや通りで無差別に銃撃した犯人が自爆したのである。この事件について、私はWEBRONZAで昨年(2015年)11月のパリ同時多発テロ事件の時に書いた。

「パリ同時多発テロの特殊性。銃撃と自爆が一体化――新しい手法が別の地域や組織に広がる危険性も」

 この記事の中で、銃撃と自爆が一体化したことについて、「ISに対する欧米やロシアの空爆など軍事攻撃の激化に対抗して、イスラム過激派の方も軍事レベルを上げた結果として出てきた新たな戦略かもしれない」と指摘した。

非武装の市民を相手に凶悪化

 銃撃と自爆は、本来、別々のものであり、合わせることには無理もある。

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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