イスラム国(IS)と「スンニ派の受難」をもたらした背景
2016年07月13日
ダッカ襲撃事件によって、シリアとイラクにまたがる地域を支配する過激派組織「イスラム国(IS)」がその支配地域から離れたバングラデシュでも影響力を持っていることが、明らかになった。
国際社会、そして日本は、ISやISに影響されるイスラム世界の若者たちに、どのように対応すべきだろうか。
以前も書いたように、ISとの戦いは、イラクとシリアにまたがる支配地域を持つ「組織」としての側面と、ジハード(聖戦)を唱えてイスラムを実現しようとする「運動」としての側面に分けて考える必要がある。
ISは弱体化しているのになぜテロが激化するのか――ISは「組織」ではなく「運動」。ISの真の脅威は「ジハード(聖戦)思想」の拡散だ(WEBRONZA)
銃撃して自爆、ISの新戦術「突撃攻撃」の意味――凶暴化するテロは、中東の戦争状況の悪化を反映している(WEBRONZA)
組織としてのISに対しては、イラク側では欧米やイランの支援を受けたイラク治安部隊による掃討作戦が続き、シリア側では米国主導の有志連合による空爆と、米軍が支援する反体制勢力によるISへの攻勢が続いている。
イラクでは6月下旬にバグダッドの西60キロにあるファルージャから2年半ぶりにISを排除した。
しかし、シーア派民兵組織が介入し、スンニ派避難民に対する深刻な人権侵害が行われていることは前回触れた。
7月3日にバグダッド市内で起きた車爆弾によって200人以上が死亡した2件のテロは、スンニ派住民の怒りと無関係ではないだろう。
一方、シリア側の中心都市ラッカやアレッポ郊外では、米軍が支援する反体制組織「シリア民主軍」によるIS掃討作戦が進行中である。シリア民主軍は2015年10月に米国の支援でつくられた部隊で、スンニ派アラブ人やトルクメン人なども含んでいるが、主力はクルド人である。
米国は昨夏、シリア反体制派に武器を与え、訓練して「穏健な反体制派」を創設するプログラムを始めたが、志願者が集まらないことや、訓練を終了した人間がイスラム過激派に合流するなどの動きがあったことから、プログラムを終了した。その後、シリア民主軍を創設した。ラッカに向けたシリア民主軍の進軍は、有志連合の空爆の援護を受けたものである。
イラク側とシリア側で進むIS掃討作戦について、サウジアラビア系のアラブ紙アルハヤトに「オバマ大統領が任期を終える前に得点をあげようとしている」という見方が出ている。ロンドンに拠点を置く独立系のアラブ紙クドス・アラビーは「スンニ派住民が住むラッカの解放にクルド人を使うのは、スンニ派の町ファルージャを解放するのにシーア派(政権)を支援するのと同じ」と批判的に書く。
アルハヤト紙もクドス・アラビー紙のスンニ派の立場であり、IS掃討作戦に対するスンニ派世界の懐疑的な目を示している。
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