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山崎拓『YKK秘録』から見える安倍政権の土壌

政治が最もダイナミズムに満ちた時代が残したもの

横田由美子 ジャーナリスト

 「YKK」と聞くと、東京都千代田区に本社を置くファスニング事業を中心とした会社のことだと思う人が、今では一般的だろう。

 しかし、1990年代から2000年代初頭にかけて、「YKK」は、もっぱら、山崎拓元自民党副総裁、加藤絋一元幹事長、小泉純一郎元総理の3人を指す「ワード」だった。

 YKKの結成は、大派閥だった「経世会」に対抗する勢力を結集することを目的としていた。そして、55年体制の終焉、細川連立政権、小選挙区導入や政界の混乱とともに、経世会支配に陰りが見え始めた。この時期、YKKは常に政局の中心的役割を担っていた。

山崎拓氏(右)の応援演説を聞く小泉純一郎氏。奥は加藤紘一氏=19日午前11時すぎ、福岡・天神2001年4月山崎拓氏(右)の演説を聞く小泉純一郎氏(左)と加藤紘一氏(奥)=2001年4月、福岡・天神
 そのYKKの一人、山崎拓氏が書いた『YKK秘録』(講談社)は、私が企画・プロデュースした本だ。本書では、この動乱の時期と小泉政権誕生、そして2003年の衆議院選挙における自身の落選までが描かれている。

 あくまで山崎氏の目を通して見た「事実」のみだが、それは彼が国会議員になってから、議員手帳に、日々、会った人や場所、会合の目的、さらには印象に残った言葉や感想まで細かく記してきたその膨大な記録がベースとなっている。

 今の政治家と比較して圧倒的な違いを感じるのは、登場する政治家たちのスケールの大きさだ。

 小泉氏が「変人宰相」と呼ばれていたのは記憶に新しい。小泉氏とは異なるが、本書には、清濁併せのむ数多くの「変人」が出てくる。彼らは一様に、人間臭さと泥臭さを持っている。しかしそれは、魅力的であると同時に、政治家として道を踏み外すという危険とも裏腹である。

 実際、金丸信氏や小沢一郎氏など、「金権政治」の代名詞とさえ呼ばれていた政治家たちは、加藤の乱とそれに続く小泉政権誕生までは、大きな影響力を持っていた。

権力闘争の功罪

 YKKの最大の功績は、打倒「経世会」を心に秘めながらも、妥協と死闘を繰り返しながら、激しい権力闘争を生き抜き、ついには小泉政権誕生という、その目的(初心)を達成したことにあるだろう。

 山崎氏の手帳には、官邸の力が過去にないほど強大化していることを受けて、こんな所感もある。

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