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破局に瀕する27万人超の民間人、アレッポの悲劇

ロシアと米国の確執の間で進む人道危機

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 内戦下シリアのアサド政権軍による包囲の下で政権軍、ロシア軍の空爆が続く北部アレッポの反体制支配地域が「人道危機」状態となっている。シリアの停戦復活を話し合う米国とロシアで非難の応酬があり、協議は中止された。アレッポの悲劇はシリア内戦に対する国際社会の無力さの象徴となっている。

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 アレッポは西側が政権支配、東側が反体制支配に分断されている。一方、アレッポ郊外は西が反体制支配、東が政権支配となり、今年に入って政権軍が攻勢を強めたため、6月からアレッポ東側の反体制支配地域が孤立した。

水が出ない、治療ができない…

 食料や医薬品など物資の補給路が断たれ、包囲されている。東側には約27万5000人の市民が暮らしており、政権軍やロシア軍による空爆が続いている。

 国連のオブライエン人道担当事務次長はアレッポ東部の状況について安全保障理事会で報告し、「人道的な破局に直面している」と警告している。病院は8カ所あるが、そのうち2カ所は攻撃を受けて使えない。給水施設も攻撃されて使用できず、東側のほとんどの地域で水が出ないという。

 さらにオブライエン事務次長は、反体制地域への攻撃で「バンカーバスター」と呼ばれる地下20メートルまで到達する地中貫通爆弾が使われていると指摘した。「以前は地下は安全だったが、最近、この種の武器が使われるようになったことは、地下20メートルでも子供や女性らの遺体が埋まっていることを示している」と語った。より破壊的な兵器の導入によって被害がさらに広がっているということである。

レッポ南西マシュハッド地区で空爆されたアパート。目撃者によると、ロシア軍機による空爆とみられる=住民提供拡大シリアのアレッポ南西、マシュハッド地区で空爆されたアパート。目撃者によると、ロシア軍機による空爆とみられる=2016年1月、現地住民提供
 オブライエン事務次長は人道支援実施のための48時間の一時停戦を求めた。

 「いまは政治的なスタンドプレーをしたり、政治的立場や軍事的立場を守ったりしている時ではない。いまは私たちの目の前で明らかになった恐怖を認識し、共通の人間性に立って、民間人を保護し、その命を救うために、敵対行為を停止する時である」と訴えた。

 9月中旬のイスラムの大祭に合わせて、アレッポを含むシリア全土での停戦実施が米国とロシアの間で合意され、1週間は停戦が続いた。だが、その間、アレッポ東側への国連の救援物資は政権軍に阻止されて、入らなかった。

 その後、米軍による政権軍への誤爆と、その後の政権軍の攻撃再開によって停戦は9月19日に崩壊した。その後、シリア人権監視団(SOHR)の集計によると、10月3日までの15日間で政権軍とロシア軍の空爆によって406人の民間人が死亡、1000人以上が負傷し、医薬品がないまま、治療もできない状態という。

 しかし、米ロの停戦協議の中止によって、一時停戦の可能性はさらに遠のいた。国連の米国大使は、ロシアによるアレッポ空爆をを「野蛮な行為」と非難し、ケリー国務長官がロシアに「戦闘をやめなければ、シリアにおける米ロの2国間の関係を停止する」と警告した。それに対してロシア側は「米政権は事実上、テロリストを支持している」と反発するなど、事態収拾どころか泥仕合の様相となった。

「同胞の受難」からISに参戦

 米国のいらだちの背景にはロシアのシリア内戦介入に対する強い不信感がある。ロシアは2015年9月末からアサド政権を支援して、シリア反体制地域への空爆を始めた。ロシアは過激派組織「イスラム国(IS)」を標的としているとするが、米国が支援する反体制勢力も含め、IS以外の反体制勢力支配地域への空爆がかなりを占める。

 10月初め、ロシアの空爆1年について、シリアの人権団体が集計した。 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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