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イラク軍によるモスル奪還作戦への懸念(上)

人道危機は避けられるのか

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 米軍主導の有志連合の空爆によって支援を受けたイラク軍が、過激派組織「イスラム国(IS)」に支配されたモスル奪還作戦を始めた。モスルは2014年6月に制圧されたが、イラク政府は2015年春からISへの攻勢を強めており、2年4カ月ぶりのモスル奪還で、ISの排除を目指す。

イラク・モスル近郊で21日、過激派組織「イスラム国」(IS)に支配されていた村を解放したイラク陸軍。IS戦闘員によって硫黄工場が放火され、有毒ガスが発生した=ロイター拡大イラク・モスル近郊の村がイラク軍に解放された際、過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員によって硫黄工場が放火され、有毒ガスが発生した=2016年10月21日ロイター
 作戦に参加しているのは、モスルに向けて南から進軍するイラク軍と、イラク治安部隊、東と北から進むイラクのクルド地域政府のクルド人部隊で、総勢3万人以上となる。

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 イラク治安部隊にはシーア派民兵「人民動員部隊」が参入し、さらに北部から、トルコが訓練した3000人のアラブ人、クルド人、トルクメン人などの民兵も参加するという。

 一方のIS側は4000~8000人の戦闘員を抱えるとされるが、シリア側から増援があるかもしれないという。 

最悪、避難民・難民が100万人?

 今回のモスル奪還作戦は10月17日に始まり、アバディ首相は「歴史的な作戦が始まったことを誇りに思う。大勝利の時は来た」と作戦開始を宣言した。

 ただし、イラク第2の都市であるモスルには、IS支配下で150万人の民間人が暮らしている。

 奪還作戦が始まった17日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「モスルの人々に救援を」とする国際的な募金を訴えた。モスル奪還作戦では、最悪の場合、市民の巻き添えとともに、100万人の避難民・難民が出ることが予想される。その対応には200億円が必要だが、これまでに33%しか集まっていない、という訴えである。

 奪還作戦の直前まで、シリア北部のアレッポで反体制勢力の支配下にある市東部がアサド政権軍の包囲攻撃を受け、政権軍とロシア軍による空爆で27万人の市民が人道的な危機に直面している、という報道が連日続いていた。

 国連人権高等弁務官が国連安保理に対して、アレッポで民間人を無差別空爆する政権軍やロシア軍を戦争犯罪の罪で国際刑事裁判所に付託すべきだと意見を述べた。

 そのような状況で、モスル奪還作戦が始まった。 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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