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「欅坂46」のナチス風衣装とトランプ勝利の意味

異なる者への偏見と不寛容が広がる世界

徳留絹枝 ブログ「ユダヤ人と日本:理解と友情の架け橋のために」管理者

 世界を驚かせたトランプ氏の米大統領選勝利の少し前、アイドルグループ「欅坂46」のナチス風衣装に、サイモン・ウィーゼンタール・センター副所長エブラハム・クーパー師が抗議した。

 この不適切かつ侮辱的な衣装に対して、ソニーミュージックとグループのプロデューサー秋元康氏に謝罪を求めます。
 ナチス風の衣装を身につけた十代の少女が、舞台や観客の間で踊るのを見ることは、ナチス大虐殺の被害者にとって大きな苦痛です。
 サイモン・ウィーゼンタール・センターは現在、世界で広がる反ユダヤ攻撃や急増するオンライン憎悪と戦っています。このグループに悪意はなかったとしても、彼女たちの演技はナチスの被害者の思い出を愚弄し、ドイツやネオナチ運動が急増する国々の若者に間違ったメッセージを送ることになるでしょう。

「欅坂46」のナチス風衣装「欅坂46」のナチス風衣装について報じたハフィントンポスト日本版の記事
 この抗議を受けて、ソニー・ミュージックエンタテインメントと秋元康氏は、認識不足と監督不行き届きの結果だったとして謝罪し、再発防止を約束する声明を発表した。

 関係者はこれで一件落着としたようだ。だがクーパー師の長年の活動を知る者として、特にトランプ氏が勝利した今、この問題はもっと深く考えられるべきだと思う。

 クーパー師とは20年来の友人だが、最初に会ったのは、文芸春秋社の雑誌『マルコポーロ』に掲載された「ナチ『ガス室』はなかった」という記事に彼が抗議したすぐ後だった。同誌に広告を出していた企業にも呼びかけたことから、日本では「言論の自由の侵害だ。これでユダヤ関連の話題を書くことはタブーになった」という声も聞かれた。

 しかしクーパー師は、「確立された歴史を修正しようとする者たちについて書くことはタブーではない。但し、彼らを相応しいカテゴリーに入れたうえですべきであり、彼らの主張に真実と同等の格を与えるべきでない」という立場で一貫していた。この場合の“相応しいカテゴリー”とは、国際社会では決して受け入れられない“ホロコースト否定者”である。

 またこの事件では、言論の自由が侵されたのではなく、広告を出していた企業が、“このような記事は支持しない”という彼ら自身の言論の自由を行使したということも、日本ではあまり理解されなかったようだ。

 この事件が残したインパクトが大きかったためか、その後、日本で起こる問題にクーパー師が抗議すると、「サイモン・ウィーゼンタール・センターが出て来たら、謝罪するしかない」といったムードが広がったように感じる。但し、「われらが血税5兆円を食うユダヤ資本」などの記事、「ホロコーストは作り話」だとする著書の広告受け入れ、さらには麻生太郎副総理の「ナチスの手口に学んだらどうか」という発言などは、抗議したのが誰であろうと、国際社会では受け入れられなかっただろう。

ネオナチグループへのメッセージ

 日本で起こるこの種の事件を大きな視点から考えるには、

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