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[17]辞めない朴大統領と「謹弔・民主主義」

伊東順子 フリーライター・翻訳業

 長い間、日韓をひんぱんに行き来しているのだけれど、最近はテレビでニュースなどを見ていると、どっちの国にいるのか混乱することがある。特に朴槿恵大統領の件に関しては、日本のワイドショーが連日の大報道。過去には軍事や統一問題を担当された専門家の先生方が、「ホストクラブ」や「美容整形」などを情熱的に語っておられ、胸が熱くなる。

 それが重大情報なのか、どうでもいいことなのかは、受け取る人によって違うだろうが、私自身が大量報道の中で特に注目したのは3つの記事だ。

 まずは毎日新聞ソウル支局の米村耕一さんによる「TV朝鮮の李鎮東社会部長インタビュー」、次に韓国の時事ジャーナルによる「金鍾泌元国務総理のインタビュー」、そしてヤフーニュースで配信されていた中川淳一郎さんという方の「韓国の民主主義が羨ましい!?日本の一部ネット上で話題に」という記事である。

朴槿恵・韓国大統領の退陣を求めて集まった人でソウル中心部の道路が埋め尽くされた朴槿恵・韓国大統領の退陣を求めた人波でソウル中心部の道路が埋め尽くされた=2016年11月12日

独裁政権時代の空気?

 前回(「朴疑惑、メディアは前から知っていた?」)も書いたとおり、韓国大統領をめぐる大スキャンダルを、国民は全く知らなかったわけではなかった。

 10月末のテレビ局JTBCのスクープ以前にも報道はあり、中でも早くから革新系新聞などとともに、この件に張り付いていたのは、「TV朝鮮」という保守系のケーブルテレビ局だった。韓国の大手新聞社は系列のケーブル用放送局をもっており、例えばJTBCは中央日報、チャンネルAが東亜日報、そして朝鮮日報系がこのTV朝鮮である。

 TV朝鮮が今回の事件に関する報道を本格化させたのは今年の7~8月、他社の追いかけ報道が本格化したのが9月以降である。

 毎日新聞のインタビューによれば、そもそものきっかけは2014年末、日本のテレビでは「元ホストクラブ勤務」として注目をあびるコ・ヨンテ氏が、李部長に接触してきたことだった。それから2年、地道に取材を続け、確証のとれたものから報道していったという。

 2014年末といえば、韓国事情に詳しい人なら、ピンと来るかもしれない。産経新聞の加藤達也支局長(当時)が朴大統領に対する名誉毀損で訴えられ、その裁判が始まった時期である。2014年11月27日、ソウル中央地裁で始まった公判は、加藤氏の車に生卵がぶつけられるなど、初日から大荒れとなったが、実はこの日にもう一つの事件が起きていた。韓国の日刊紙「世界日報」が大統領の「秘線」(大統領の秘密ライン)と「国政介入」問題をスクープしたのだが、そちらもその日のうちに名誉毀損で訴えられてしまったのだ(訴えた「ドアノブ三人衆」らは、今は逆に晴れて検察に出頭を命じられる立場となった)。

 この頃の韓国の言論状況は異常だった。のちに無罪となった加藤氏だったが、2度にわたる出国停止措置は「見せしめ」とも言われた(これについては、当時、WEBRONZAにも書いたことがある)。あの状況下、つかんだ情報が大きければ大きいほどメディアが慎重になるのも、無理のないことだったかもしれない。李部長のインタビュー記事での最後の言葉は印象的だった。

 「大統領も崔容疑者も(軍事独裁の時代の)1970年代の空気を引きずっている。国家を少しくらい自分たちの自由にしてもかまわないという意識があったのではないか」

「5000万人がデモしても、彼女は絶対に下野などしない」

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