姜尚中(カン・サンジュン) 東京大学名誉教授、熊本県立劇場館長兼理事長
1950年、熊本県熊本市生まれ。国際基督教大学准教授、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授、聖学院大学学長などを経て現職。専攻は政治学、政治思想史。『逆境からの仕事学』(NHK出版新書)、『世界「最終」戦争論——近代の終焉を超えて(集英社新書、共著)、『姜尚中と読む夏目漱石』(岩波ジュニア新書)など著書・共著多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
韓国の民主化運動に多少なりともかかわってきた在日の私にとって、2016年10月下旬から韓国を騒然とさせている朴槿恵(パク・クネ)大統領の親友・崔順実(チェ・スンシル)による国政介入、大統領府要人による崔被告への資金供与や資料提供といった一連の疑惑は、あまりにもひどく、怒りを通り越して深い虚脱感に襲われるものでした。韓国の国内で民主化闘争に直接たずさわってきた人たちの間でも、沈痛なため息が漏れています。
この政治スキャンダルの主役は崔順実という60歳の女性です。
彼女を紹介する英字紙の表現は「シャーマン・フォーチュンテラー」。つまり、占師が大統領を動かしていたというわけです。
韓国は80年代後半に民主化が実現して以来、先進国の仲間入りを果たしたはずでした。ところが、現実はまったく前近代的といってよいありさまだったのです。
職権乱用共犯容疑で逮捕・起訴された崔被告の娘が、大統領府からの圧力によって名門の梨花女子大に不正入学していたなどという、いじましい疑惑まであります。あまりにも恥ずかしい――これがいまの韓国の国民感情でしょう。
ソウルだけでなく、地方でも退陣要求デモはおこなわれています。韓国全土では、おそらく200万人規模、過去最大級の政治運動です。多くの市民が怒りをあらわにしていますが、幸いなことに暴動や武力鎮圧という事態にはいたっていません。その点では、韓国の民主主義の成熟を見ることができて、少し明るい気分にもなるのですが……。
私が改めて感じたのは、朴政権が背負っている歴史的な「死重」(Deadweight、重荷)という問題でした。