米軍機の訓練区域を人が住んでいる場所からいかに遠ざけるか
2016年12月20日
米海兵隊の新型輸送機オスプレイが、2012年10月に沖縄に配備されて以来、はじめて事故評価「A級」の大事故を引き起こした。幸い地元住民に被害は及ばず、米軍の乗員5人も命を落とさずにすんだが、事故がもたらした影響は深刻だ。
なぜなら日米両政府は普天間飛行場を「世界一危険」とみなし、返還合意から20年も辺野古地区への移設にこだわってきたものの、実は大事故は基地周辺以外のどこにおいても起きうるという当たり前のことが今回再認識されたからだ。
オスプレイは来年(2017年)以降、関東や九州への配備が始まる。全国に不安と反発が広がるのは避けられない。
軍用機の訓練に事故はつきものである。基地があるがゆえに事故が起きるとはいえ、やはり実戦を想定した激しい訓練を重ねる軍用機が、一般住民の生活地域に近い場所で日常的に訓練している実態は異常と言わざるをえない。専用のサーキット場で走るべきレーシングカーが、一般車両が行き交う公道で日夜訓練をしているようなものなのだ。
むろん日米両政府がともに責任を負うべきだが、とりわけ安保条約で訓練地域を提供する義務がある日本政府の責任は大きい。改めて根本的な見直しと猛省を促したい。
事故がどのような形で起きたのかふり返ってみよう。
在日米軍や防衛省によると、事故が起きたのは12月13日午後9時半ごろ。普天間飛行場のオスプレイが沖縄本島の東方海上で、米空軍特殊部隊の空中給油機から給油を受ける訓練をしていた際、オスプレイがプロペラで空中給油機の給油ホースを切断。2枚あるプロペラのうち片方が破損し、不安定な飛行を続けた末にキャンプ・シュワブ近くの浅瀬に不時着水した。いったんは普天間飛行場への帰還を試みたのち、キャンプ・シュワブに目標を変更したにもかかわらず、たどりつけずに海に着水したとみられている。
米海軍の安全センターは事故発生の3日後、ホームページに次のような評価を公表した。
「MV-22 ditched off Okinawa during NVD training」
オスプレイは「夜間暗視装置(NVD、Night Vision Device)を使った訓練のさなかに不時着水した」という。事故の規模は4段階のうち最高度。機体はほぼ全壊した。航空評論家の石川潤一氏は「オスプレイは、墜落時の衝撃をある程度やわらげられる構造になっている。しかし、もし定員に近い20数人が乗っていたら犠牲者が出ていたかも知れない」と話す。
航空機同士による夜間の空中給油は、最も難易度が高い活動の1つだ。
空中給油機(KC130)の後方から伸びる給油ホースの先端には、ドローグと呼ばれる漏斗(じょうご)状の給油口がついている。それがオスプレイの前方についているプローブと呼ばれる穂先状の受け口とドッキングし、燃料が流し込まれる仕組みになっている。
しかし2機が一定の距離を保ちながら飛行を続け、給油装置をドッキングさせる技術はかなりの技能を要する。気流の乱れなどによって、機体や給油ホースが上下左右に勝手に動き回ることがあるからだ。実際、在日米軍は12月19日になって「乱気流等」が原因であることを早々と認め、防衛省を通じて発表した。
空中給油中に起きた軍用機の事故は、固定翼・回転翼ともに少なくない。よく知られているところでは、1966年、水爆を積んだ米空軍のB52爆撃機がKC135空中給油機とスペイン上空で衝突して墜落。積んでいた4発の水爆が陸上や地中海に落下したという事故があった。
航空自衛隊でも、救難ヘリコプターUH60Jが夜間の空中給油訓練をすることがある。空自トップの杉山良行・航空幕僚長はその難しさをこう話す。
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