姜尚中(カン・サンジュン) 東京大学名誉教授、熊本県立劇場館長兼理事長
1950年、熊本県熊本市生まれ。国際基督教大学准教授、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授、聖学院大学学長などを経て現職。専攻は政治学、政治思想史。『逆境からの仕事学』(NHK出版新書)、『世界「最終」戦争論——近代の終焉を超えて(集英社新書、共著)、『姜尚中と読む夏目漱石』(岩波ジュニア新書)など著書・共著多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米国のトランプ次期大統領はTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を明言しています。TPPに代わって彼が望むのは、2国間のFTA(自由貿易協定)のようです。また、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しも表明しています。もしそうなれば、日本の自動車産業がメキシコに製造工場を置き、NAFTAを利用して米国に輸出するようなことは今後できなくなるかもしれません。
FTA交渉やNAFTAの見直しが始まれば、1980年代から90年代前半にあった自動車・半導体の日米貿易摩擦のようなことが再び起こり、日本経済にとって、大きな試練になる可能性があります。
しかも米国のTPP離脱は、単なる通商・貿易の自由化からの後退ではありません。実は、米国がアジアにおける安全保障の面でも後退することを意味しているのです。
要するに、日米の「国家戦略」が決定的にすれ違ってきたということです。
安倍政権は、この大きな変化を内心では理解していても、まだ明確に認識していないのではないでしょうか。2016年12月上旬、審議不十分との批判がある中で、TPPの国会承認を強行したことは、その証左とも言えます。
TPPをめぐる日米のすれ違いを、通商・貿易の問題に矮小化することは危険です。これは安全保障の問題なのです。安倍政権の「地球俯瞰外交」は、前回述べたように「中国封じ込め」が最大の目的であり、TPPはその要の要だったわけです。
これが米国とすれ違うということは、実は、そうした国家戦略の大幅な軌道修正すら求められる、非常に危うい状況にあると言えるのです。
2017年1月から登場するトランプ新政権の影響を受けて、それ以降、世界各国はどのような「ビッグ・ピクチャー」(全体像)を描いていくのでしょうか。
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