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アレッポ陥落後のシリアはどうなる?

米国「不在」の中、ロシアとトルコの剛腕大統領がカギを握る

川上泰徳 中東ジャーナリスト

シリアのアレッポで13日、破壊された装甲車両の上に立つアサド政権軍の兵士=ロイター拡大シリアのアレッポで、破壊された装甲車両の上に立つアサド政権軍の兵士=2016年12月13日、ロイター

 2016年7月以来、アサド政権軍による包囲攻撃が続いていたシリア北部アレッポ東部の反体制地域が陥落した。アレッポでは、2012年7月に自由シリア軍など反体制武装勢力と政権軍との戦闘が始まって以来、両勢力がせめぎあっていた。アサド政権はイランとロシアの支援を受けて攻勢を強めてきたが、アレッポ陥落はシリア内戦の転換点となりそうだ。

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力がなくなったアサド政権

 転換点からの方向には、アサド政権の全土制圧に向けた動きになるのか、逆に和平交渉が動く契機となるのか、という二つがある。

 アサド政権としては一気に反体制勢力地域への攻勢を強めたいところだろうが、多分、そうはならないだろうと私は見ている。

 なぜなら、アサド政権には独自の判断で戦況を左右する力はもうないからである。

 政権軍を支えているのは、イランの革命防衛隊とその指令下にあるレバノンのシーア派組織ヒズボラの地上部隊、さらにイラクのシーア派民兵である。そこに、ロシア軍が空爆で援護している。

政権軍の兵員不足

 シリア内戦は始まって5年半を過ぎたが、2012年末ごろにはアサド政権の崩壊は時間の問題とみられていた。その劣勢を挽回するために、2013年春からイランが全面的な支援に乗り出した。地上戦でイランの革命防衛隊の指令下にあるレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの地上部隊が参戦した。6月にはシリア西部のレバノン国境に近い戦略要所クサイルを奪還し、さらに反体制派が抑えていた中部の都市ホムスに攻勢をかけ、2014年5月にはホムス市内から反体制派の兵士や住民を撤退させた。

 ところが、2015年春に反体制派の大攻勢が始まり、政権軍が抑えていたイドリブがイスラム系反体制組織連合に奪還されるなど、政権軍の劣勢が続いた。

 最大の要因は、政権軍の兵員不足である。ワシントンに拠点をおく戦争研究所は、内戦前に30万人いたシリア国軍は2014年の段階で15万人~17万人に半減したと推計した。内戦によって10万人の兵士と政権系民兵が死亡し、さらに反政府勢力への寝返りや懲役の忌避、逃亡が起きているためだという。2014年10月、政権が兵員補充のために28歳から35歳までの予備役の召集を始めたことが兵士の逃亡を助長した。

 政権軍の兵員不足は改善されず、アサド大統領は2015年7月の演説で、「我々はある地域を放棄して、重要地域に軍を集中的に投入する必要がある」と語り、その理由を「人員不足」と明言した。同年9月にロシア軍が政権支援のための空爆を始めたのは、アサド政権が崩壊することで、タルトゥースの軍港などシリアでの地歩を失う危機感があったためである。

 アサド政権軍は、地上ではヒズボラとイラクから来たシーア派民兵による支援、上空ではロシア軍の空爆の援護を受けて、アレッポを制圧した。しかし、国軍が事実上破たんしている状態では、主要道路や都市部を支配することはできても、無人地帯や山岳部に拠点を持つ反体制派を制圧して、全土に支配地域を広げることは不可能である。

 アサド政権がアレッポ陥落に勢いを得て攻勢に出ようとすれば、イランやロシアにさらに依存するしかない。しかし、イランやヒズボラがこれ以上、反体制支配地域で戦線を広げるという困難を受け入れるとは思えない。ロシア軍はアレッポの民間地域への無差別空爆について、国連や欧米から激しい批判を受けている。ロシアはアレッポ制圧という軍事目標を達成したことで、強硬な軍事オプションを一旦止めて、政治路線に転換する方向を目指すだろう。

民間人退避が始まった背景

 今回のアレッポ陥落では東部に残る20万人以上の民間人の犠牲をいかに避けるかが国際社会の最大の関心事となった。東部の病院がすべて破壊され、負傷しても治療する施設がないという人道危機が進む中で、 ・・・ログインして読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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