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厳しい中国の新たな環境対策、対応遅れる日系企業

裏ワザに頼らず、正々堂々と環境対策に取り組むべきだ

児玉克哉 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

 中国の環境汚染のひどさは世界的にも大きく報道されている。北京や上海など大都市での大気汚染は半端ではなく、日によっては隣のビルさえ靄がかかって見えるくらいだ。大気汚染以上に深刻なのが水質汚染だ。工場からの排水で、赤色の川、緑色の川、黄色の川などが出現している。大量の魚の死滅なども報告される。こうした汚れた水は地下水の汚染も引き起こしており、地下水依存の高い北部では深刻な問題となっている。

環境汚染対策に様々な「抜け道」

拡大「赤色警報」が発表され、天安門広場ではマスクをする観光客も目立った=北京
 こうした環境汚染はこれまでも指摘されてきて、中国政府も対策を行ってきた。しかし、賄賂社会の中国においては、様々な「抜け道」が用意されており、骨抜きの対策になっていたといっても過言ではない。環境対策に使う費用と賄賂に使う費用とを天秤にかける。明らかに賄賂を使って見逃してもらう方法が安上がりであり、後者の方法が中国ビジネスの「王道」という感さえあった。表面上の対策ができても、実効性は低く、結局、本格的な環境対策は後回しにされてきた。

 日系企業も「When in Rome do as the Romans do」のごとく、中国の慣習のなかでやりくりする術を獲得してきた。日本企業が持っているイメージはおおよそ次の通りだ。1.中国では環境規制が甘く、生産コストを低くできる。2.日本の環境技術は高く、中国では楽々、規制値をクリアできる。3.いざとなったら賄賂や個人的な関係によって対応できる。4.問題となっているのはそうした「裏の対応」をしっかりとしていないためだ。

大きく方針を変えつつある中国

 確かに数年前まではこうした「イメージ」が間違いではなかったかもしれない。しかし、今、中国は大きく方針を変えつつある。環境規制基準が厳しくなったばかりでなく、その運用も厳格になった。賄賂などの取り締まりも厳しくなっており、「裏ワザ」の使用はかえってリスクを高めることとなっている。つまりこれまでの中国の「常識」が通用しない事態になっているのだ。現地の「アドバイザー」が過去の常識でアドバイスをするが、これがかえって問題を深刻化させている。日系企業も実際に処分を受けているのだ。日系企業への嫌がらせとだけ捉えるのも間違いで、中国企業はもっと処分を受けている。つまり、中国ビジネスの基本ルールが変わっているのだ。

 月刊 「FACTA」2017年1月号で発表された記事はその深刻さを明らかにしている。

「中国当局が苛烈な環境規制 処分を受ける日系企業続出」
『中国政府の環境規制強化に伴い、日系企業の摘発が相次ぐ。大気、水、土壌など深刻な汚染の実態が明らかになるにつれ、中央政府も環境規制に本腰を入れざるを得なくなった。なかでもエコ意識が高い沿岸部では、「日本に比べ中国は環境基準が緩いという認識はもはや通用しない」(日系食品メーカー)。排水や揮発性有機化合物(VOC)の一部項目では、日本を上回る基準を課せられ、クリアできない日系企業が増えている。
1万社を越す日系企業が進出している上海市では、環境保護局が違反企業をホームページで公開している。ほとんどが中国系企業だが、日本企業も例外ではない。ちなみに2016年1月~10月に約40社の日系企業が罰金や生産停止処分を受け、三井化学、花王、ダイキン工業、JUKI、クレハといった名だたる大企業が槍玉に挙がった。罰金は、概ね10万~50万元(160万~800万円)だが、違反を繰り返し、大幅に加算されるケースもある。』

増え続ける、処罰される日系企業

 大企業も中小企業も処分を受けている。6月以降も処罰を受ける企業は増え続けていることは間違いないようで、事態はさらに深刻化している。日系企業は本社からの決定を待っての判断となる場合が多い。経費の削減を最優先事項としている本社は多く、この事態を理解しないのだ。本社は根本的な解決策には足を踏み入れず、現地で当局担当者との「コミュニケーション」を密接にして乗り切るようにという指示だけを出す。現地の法人は、日本の本社の無理解と中国当局の規制強化の板挟みで苦しんでいる状態となっている。

 前出の月刊 「FACTA」の記事によると『環境保護当局は自らの存在感を示すため規制強化に突き進み、日系企業は変化への対応が遅れている』のだ。

 以前より筆者はこの事実を紹介し、ずっと警笛を鳴らしてきたが、その重大性に気づかないのか日本企業の対策は後手後手に回ってしまった。これまでの中国の甘い環境対策や賄賂社会をイメージして「たかをくくっていた」といえる。中国政府がこれだけのスピード感を持って、本格的な改革に取り組むとは思っていなかったのだろう。5年後、10年後に想定していた「改革」が今、現実化しているのだ。

 おそらく来年以降は当局からの締め付けはさらに厳しくなるだろう。対応の遅れは、中国での事業の経営に深刻なマイナスとなる可能性が高い。この状態が続けば、 ・・・続きを読む
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筆者

児玉克哉

児玉克哉(こだま・かつや) 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

三重大学副学長・人文学部教授などを歴任し現職。専門は国際平和論、市民社会論、NGO論など。国際平和研究学会の現事務局長でもあり、世界の平和研究の中核を担っている。グローバルな視点から社会科学の発展に寄与している。核兵器廃絶へ向けた「ヒロシマ・ナガサキプロセス」を提案し、世界的な運動を繰り広げている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。

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