藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト
元朝日新聞記者。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日中両政府が関わった研究で共有される虐殺の事実
日中戦争中の南京事件や「慰安婦の強制連行」について否定的な書籍を客室に置くアパホテルに対して、中国や韓国で批判が相次いだ。一方、日本では大きな問題とはならず、ホテル側にも言論の自由があると擁護する声もある。歴史認識をめぐる内外の溝はさらに深くなっているのかもしれない。
米国人と中国人を名乗る2人が1月、宿泊先の東京のアパホテルで元谷外志雄アパグループ代表(ペンネームは藤誠志)の書籍『本当の日本の歴史 理論近現代史学2』を読み、中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)に元谷氏の政治観を問う批判的な動画を投稿した。
動画は中国で大きな話題となり、反発を巻き起こした。歴史認識では当局も譲るわけにはいかない。中国外務省の華春瑩・副報道局長は「日本の一部勢力が歴史を直視せず、ねじ曲げようとしている」と述べた。
中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」がアパホテルの「右翼的背景」は今に始まったことではないと報じたように、元谷氏は歴史認識をめぐり以前から独自の考えをグループが発行する情報誌「Apple Town」などで表明してきた。グループは2008年に懸賞論文の募集を始め、最初の最優秀賞を田母神俊雄・航空幕僚長(当時)に贈ったが、日本の侵略を正当化するような内容が問題化し、田母神氏は幕僚長を更迭された。
2月19日に開幕する冬季アジア札幌大会の選手宿舎に「アパホテル&リゾート札幌」があてられたことで、中国や韓国は書籍の撤去を求めたが、アパグループは「異なる立場の方から批判されたことを以(も)って、本書籍を客室から撤去することは考えておりません。日本には言論の自由が保証されており、一方的な圧力によって主張を撤回するようなことは許されてはならないと考えます」などの考えをホームページに掲載した。
しかし、アパグループはその後、「2015年4月に選手村としての宿泊について打診があった段階で、代理店を通じて口頭で該当書籍だけではなく客室内のすべての情報物の撤去の依頼をいただきました」と表明し、書籍を一時的にホテルで保管することにした。他のホテルでは撤去しない。
中国ではアパホテルのボイコットを呼びかける声が広がっただけでなく、中国国家観光局は、旅行会社および観光関連電子商取引サービスサイトに対し、同ホテルとの協力を全面的に停止し、同ホテルを宿泊先にすることをやめ、同ホテルの観光商品および関連宣伝・広告をすべて撤去するよう求めた。
ところが日本では、中国側に問題があるかのような発言も相次いだ。
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