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「移民」とは誰のことか

日本も欧州の混乱を「対岸の火事」とみるのではなく、問題意識を共有していこう

渡邊啓貴 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

世界の論調と温度差がある日本

性的少数者、難民、イスラム教徒などあらゆる立場の人々の権利を守ろうと声を上げる抗議集会の参加者ら=2月4日、米ニューヨーク性的少数者、難民、イスラム教徒などあらゆる立場の人々の権利を守ろうと声を上げる抗議集会の参加者ら=2月4日、米ニューヨーク

 「アメリカン・ファースト」を標榜(ひょうぼう)するトランプ大統領の政策は、様々な領域での国際紛争の火種となっている。メキシコとの国境に壁を構築し、イスラム教7カ国からの入国を停止するという措置は欧州でも大きな反響を呼んでいる。日本でもメディアを通してトランプ政権の政策に対する批判的な視点は見られるが、いまひとつ世界の論調とは温度差がある。

 それはなぜだろうか。

 難民にせよ、経済的移民にせよ、国内の社会・経済的状況が厳しいので、国外のより環境の良いところで暮らしたい。民主主義的な権利を普遍化するならば、「人の移動の自由」を否定することはできない。そしてそれは理想である。

 ところが現実には、それぞれの国は国民的統合を維持するために、様々な制約的な条件を課せられている。したがって他国の事情に勝手に口出しすることはできない。国家と国家の間には壁がある。勝手に出たり入ったりされては困る。それは道理であり、主権国家による国際関係の原理原則的な意味での現実である。

 他方で、今世紀初めに日本が提唱した「人間の安全保障」という概念は究極の人道主義を背景としている。飢えからの脱出、住居の確保、教育を受ける権利など、基本的人権は国家を超えて国際社会が負担すべきであるという考えだ。それはグローバルイシューの国際社会による対応を意味する。それも理想主義である。

 移民・難民問題も、このグローバルイシューのひとつだ。日本が今以上に熱心に取り組まなければならない問題である。

 ヨーロッパでは「アラブの春」の残滓(ざんし)である中東地域で発生した大量難民のヨーロッパへの移住と、その取り締まりがこの5年来、大きなテーマとなっている。地中海をボートで渡ったり、ユーロ・トンネルをトラックや鉄道に乗って密航したり、バルカン諸国を陸路によって不法入国したりする難民が後を絶たない。

 折しも一昨年からのパリやブリュッセルでおこったテロ事件は、こうした外国人流入問題の議論に拍車をかけた。この事件が移民第2世代の「ホームグローン」(現地出身)テロリストの犯行であったことから、日本でもテロと同時に移民の問題が話題となり、紙面をにぎわせるようになった。ようやく難民・移民問題に関心が払われるようになった。

外国人労働者受け入れの議論にすり替わっている

 それでは改めて問うてみよう。「移民」とは誰のことであろうか。

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