思想が取り締まられる時代
2017年02月16日
ネット上に溢れる“導入すれば辺野古の米軍基地反対派を一網打尽にできるwww”的な確信犯だけの賛成ではない。だからこそ問題なのである。
「賛成」の人々の多くは、“テロ対策”という政府の主張を額面通りに、あるいは従来の常識のレベルで信じ込んでいるようだ。素直と言えば素直な受け止め方なのかもしれない。
だが、本当にそれでよいのか。殺人予備罪や爆発物取締罰則など、既存の法令だけで十分だと多くの法律家が主張する“テロ対策”を、共謀罪の新設でさらに強化できると仮定しても、その効果はどの程度で、引き換えに生じるマイナスはどんなものか。行為原則=侵害性という近代刑法原則を軽々しく否定してよいのか。そもそも“テロ”とは何なのか。2020年東京オリンピックを控え、何かと言えば“テロ対策”が謳われるが、ならば共謀罪を成立させる以前に、テロを招く要素を可能な限り減らす努力が大前提であるべきではないか。
以上のような葛藤や議論の積み重ね、実践がまずあって、それでも共謀罪が不可欠だという結論に至るのなら、個人的な賛否をさて置く限り、わからないではない。だが現政権の姿勢は違う。共謀罪は危険に過ぎる。
2013年11月、当時の石破茂・自民党幹事長(元防衛相)が特定秘密保護法案に反対する国会周辺のデモに触れ、「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」とブログに書いたのは記憶に新しい。この前年に公表された自民党の「日本国憲法改正草案」や、その後のマスメディアとの関係等を考慮すると、石破発言に窺える表現規制・言論統制への情念は、現体制のかなりの部分で共有されていると見てよいのではないか。
現に昨年(2016年)夏の参院選では、野党統一候補や民進党、社民党の候補を支援する団体の建物敷地(大分県別府市)に、大分県警別府署が秘かに隠しカメラを設置し、人の出入りを監視していた事実が明るみに出た。2014年には岐阜県大垣市で、風力発電所建設計画に反対する住民らの病歴に及ぶ個人情報が警察に収集され、電力会社に提供された事件も発覚している。
つまり思想が取り締まられる時代になりつつある。ここに共謀罪が加わるとどうなるか。
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