「消費社会」が世界中に広がる
2017年02月21日
注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年6月3日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。
立憲デモクラシーの会ホームページ
http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/
4) 最後に4番目ですが、もう一つのファクターがあって、ここが重要なのですが、それがマーケティングです。マーケティングというのは、消費を生産するためのコア・テクノロジーで、消費者の欲望はどういうふうにつくられるのか、どういう心の法則を持っているのか、どういう働きかけをすると、どう人々は反応するのか、そういう知識の体系を蓄積してノウハウを組織化する必要があります。どんな映画をつくろうかというときにも、マーケティングが必要です。で、このマーケティングの技術体系をつくったのが、エドワード・バーネイズという人物です。「人びとの心の中の隠されたマーケット」に働きかけるテクノロジーとして、マーケティング技術というものを発達させようということを考えついた人物です。この人物について、皆さんはあまりご存じでない。フォードほどは知らないし、エジソンほども知らないが、実は20世紀の資本主義をつくり出したとても重要な人の一人なのです。
彼はジグムント・フロイトの甥なんです。マーケティングをつくるためのノウハウは、実は叔父さんの集団心理学というものを使ったんですね。フロイトがいまのように有名なのは、実はバーネイズがマーケティングをアメリカでしてくれたからということもあるんですが(笑)。こういう関係にありまして、人間の心理に働きかけるテクノロジーというものをつくった人物です。そういうノウハウがあって、この四つでもって、消費を生産するということが可能になった。
1のテイラーシステムについては、レーニンが鋭いことを言った。それから2のフォードについてはグラムシがいち早く20世紀の資本主義をフォードディズムとして分析した。ところが3と4についてはマルクス主義者は全くいないんですね。これが20世紀を通して、マルクス主義がアメリカ資本主義に敗北する理由です。「消費」というものの理論を持たなかったことが、社会主義を歴史から退場させた最大の理論的欠陥であって、そこには全く理論家がいないということなんですね。それで資本主義が消費を生産し、人びとの消費意識をも生み出すような時代になると、古い産業社会観にもとづく社会主義は歴史から退場することになった。
バーネイズに話をもどしますが、もう少し説明すると、アメリカのたばこ協会から、たばこが売れなくなってしまったので、どうにかしてほしいという相談を受けます。1928年のことです。そのときにバーネイズが考えたのは、その頃はアメリカでも、女性はたばこなんか吸うものではないという常識が人々にあって、たばこを吸う女は蓮っ葉な変な女というネガティブなイメージだった。そのことによって、人口の半分がたばこを吸ってくれないという問題がありました。
当然、そういう映画もつくられます。そうすることによって、リタ・ヘイワースにしても、グレタ・ガルボにしても、映画の中でみんなたばこを吸うようになった。それでたばこを女が吸うことはかっこいいことだとなり女性がたばこを吸うようになったということを実現したのが、このバーネイズさんなんですね。それがよかったかどうか(笑)。
これがアメリカの資本主義をつくっていく原理になった。消費を生産することができるようになり、消費を生産する技術的な基盤はメディアというテクノロジーであって、メディアが意識を生産することができるので、それが文化産業として、消費をベクトル化していくという働きをつくっていくというのが、我々がいまでも生きている現代資本主義のあり方です。これがなぜこの世界には広告があふれ、人びとが消費イメージにこだわり、広告代理店やメディア産業が巨大化して、人びとの生活に絶大な影響力を公使しているのかという理由です。
20世紀にはこうした人間が書く文字ではない、機械が書くテクノロジーの文字としてのメディアが人間の文明というものを決定していく非常に大きな力として台頭してきたわけです。それにいち早く適応した政治勢力があって、それが全体主義です。ファシズムであり、ナチズムであり、
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