25万人の巨大な組織は文民統制の下、きちんと機能しているのか?
2017年03月06日
南スーダンの国連平和維持活動(UNMISS)で、陸上自衛隊が活動状況を記録した「日報」などの保管問題が混迷を深めている。いったんは廃棄されたとしたものが再調査で防衛省内から次々と見つかるなど同省の不手際が重なり、隠ぺい疑惑が浮上したり、稲田朋美防衛相の統率力不足を露呈させたりした。
それを機に国会では、日報に書かれた南スーダンの政府軍(大統領派)と反政府勢力(前副大統領派)の「戦闘」の実態をめぐり、野党が国連平和維持活動(PKO)参加の前提となる紛争当事者間の停戦合意がすでに崩れているのではないかと追及。これを稲田氏が「武力衝突」と言い換えて派遣の継続を主張したため、「言葉遊び」との批判まで噴出するありさまで、問題の核心がどこにあるのかが見えづらくなってしまった。
ここは論戦の進め方を整理してはどうか。
重要なポイントは少なくとも二つある。一つは情報公開の開示基準があいまいなこと。もう一つは文民統制の原則がきちんと機能していたかどうか、である。
まずは国会審議が、黒塗りだらけの文書にもとづいて行われていることから始めよう。
防衛省が公開した文書は、陸自の派遣部隊が作った「日々報告(日報)」と、その上級組織である中央即応集団が日報に基づきまとめた「モーニングレポート」の2種類。いずれも、当初の開示請求では廃棄されたとしていたが、電子データの形で統合幕僚監部に保管されていたことが判明した。
最も注目されている南スーダンの武力衝突に注目しよう。
内戦が再燃したのは、建国5年の記念日(7月9日)まぢかの昨年7月7日。検問所での政府軍と反政府勢力の小競り合いをきっかけに、一気に激しい戦闘へと発展した。首都ジュバでは、戦車や装甲車、攻撃ヘリコプターが投入され、双方の間で銃弾や迫撃砲弾が飛び交った。その結果、政府軍の戦車による砲撃で中国軍のPKO要員2人が死亡、8人が負傷したほか、同11日までに戦闘に巻き込まれて300人近くの死者が出たとされる。
自衛隊の宿営地周辺でも戦闘が頻発した。朝日新聞を含む国内外の報道やUNMISSの発表などを総合すると、同宿営地の周辺で7月10日から11日かけて起きた事態はおおむね次のような内容だったとみられる。
舞台となったのは、自衛隊の宿営地からわずか100メートルほどしか離れていない建設中の9階建てのビルとその周辺。この2日間にわたり、ビルに立てこもった反政府勢力約20人と政府軍の間で断続的に戦闘が行われ、政府軍側に5人、反政府勢力側に23人の死者が出た。
反政府勢力の狙いは近くにある空港の占拠だったとみられ、ビル内から小銃や迫撃砲などで政府軍への攻撃を繰り返した。これに対し政府軍側は戦車やロケット砲などで応戦。ビルの壁面には戦車砲弾が命中してできた弾痕も確認された。
また自衛隊と近接するバングラデシュ隊の宿営地にもビルの方向から砲撃があり、隊舎の一部が壊れたほか、監視所や車両の窓などが破損。バングラデシュ隊は、逃げてくる女性や子どもらが危険にさらされたため小銃で応戦したという。
自衛隊の2種類の文書にも、当時の衝突の模様が記載されている。
たとえば、11日付のモーニングレポート(10日の日報のまとめ)は戦車や攻撃ヘリの動きについて触れ、「TK(tank=戦車)、トルコビルに対し戦車砲を射撃、トルコビル西端に命中」とか「2機の攻撃ヘリが離陸、低空にて9時方向へ移動」など簡潔ではあるが、黒塗りを免れたくだりから衝突の激しさが読みとれる(※資料1)。
一方、そのもとになったとされる日報はどうか。
「日本隊南側トルコビル周辺でSPLA(政府軍)とSPLA-IO(反政府勢力)の銃撃戦が発生」という記述はあるものの、その他の戦闘場面については大半が黒塗りになっている(※資料2)。戦車や攻撃ヘリの動きにまつわる記述は見あたらず、両者が同じ出来事をまとめたものであるのかどうかの確認さえ難しい。もし同じ状況を報告したのだとすれば、日報は戦闘の激しさを黒塗りで隠そうとしたのに対し、モーニングレポートは逆に開示してつまびらかにしたことになる。
食い違いはこれにとどまらない。
モーニングレポートには、地図上に戦車砲やロケット砲が発射・着弾した場所が記されているが、日報には見あたらないなど、いくつもある。両者の開示基準は明らかに異なっている。防衛省は、黒塗りの理由について「隊員の安全や情報源の秘匿などに影響する恐れがあるため」と説明する。しかしこの文書ひとつにしても、不統一な基準にもとづき恣意的に黒塗りが施されたと言っても過言ではない。
見方を変えれば、統一した基準がないせいで、本来なら隠さなくてもいい部分まで必要以上に隠されている可能性がある。実のある論戦を期待するなら、まずは何がどんな理由で隠されたのかをチェックした上で、防衛省にぎりぎりまで事実関係の開示を迫り大規模戦闘の実態を明らかにすべきだろう。
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