日中からアメリカに働きかけて日米中関係を強化することも視野に入れよ
2017年03月27日
2017年3月19日、アメリカのティラーソン国務長官と、中国の習近平国家主席が北京で会談した。そこでは、「衝突しない、対抗しない、そして互いに尊重し合い、ウィンウィンの協力を行う」ということが国務長官から提案されたという。この内容は、オバマ大統領に習近平国家主席が提起した「新型大国間関係」の内容と近い。オバマ大統領はこの言葉で米中関係を位置付けなかったが、トランプ政権はこれらの言葉をあえて使って習主席に寄り添ったようにも見える。
しかしながら、衝突、対抗、尊重、ウィンウィンの定義をめぐる解釈権は必ずしも中国側にはない。また、尊重するとは言っても、何を尊重するのかという点で、中国は核心的利益を想定するが、アメリカ側はその認識を共有しない。ティラーソン国務長官の言葉は、米中関係の安定を目指しているようでありながら、依然具体的なことはわからない。米中関係の具体像はまだ見えてきていない。
では、2017年の米中関係はどのように見ることができるだろうか。幾つかの論点から検討したい。
第一に、「一つの中国」をめぐる問題がある。これは、中国にとっての「一つの中国原則」と、アメリカにとっての「一つの中国政策」の相克であった(注1)。これらは米中関係の根幹とも言えるものである。
しかし、次期大統領候補となったトランプ氏が、アメリカの「一つの中国政策」の見直しを示唆し、台湾の蔡英文総統と電話会談をおこなった。これは、大きな挑戦と中国には見えたであろう。しかし、中国側は最低限度の反論しかしなかった。そして、大統領に就任したトランプ氏は、安倍総理との会談前に習近平国家主席と電話会談を行って、「一つの中国政策」の継続を約束した。
習近平政権とてトランプ政権を与(くみ)し易(やす)いとまでは思っていないだろう。だが、中国側の動きを見ると、その対米姿勢はまずはトランプ政権の出方を見極めようとしているようだ。2017年3月の全国人民代表大会における政府工作報告でも、またその前後のトップ7の記者会見でも、世界が反グローバリズムに向かっているとアメリカを念頭においた批判があったが、アメリカ側を直接刺激するのは避けていた。
第二に経済問題がある。トランプ大統領は雇用創出に傾注し、また選挙期間中から貿易格差や為替の面で中国を批判してきた。大統領就任後に批判のトーンこそ下がったものの、その主張は大きくは変わっていない。経済貿易、金融はトランプ政権下の米中関係にとって大きな争点だと言える。だが、中国側が先手を打って対策を講じている形跡は今のところ見られない。
次に重要な論点となるのは、TPP(環太平洋経済連携協定)を始めとする経済面でのマルチの枠組みだ。オバマ政権と異なり、トランプ政権は経済面でのマルチ枠組みを重視してはおらず、一国主義的な傾向を有する。中国は、TPPのような、中国を除くマルチの枠組みの形成を好んではおらず、もしトランプ政権がこうした枠組みを重視しないのなら、それは中国にとってポジティブに映るであろう。
第三に、特に長期的な最大の焦点として安全保障問題がある。トランプ大統領は国防費を10%以上増加させるとし、さらに日米同盟、米韓同盟の重要性を確認した。また北朝鮮によるミサイル発射などに対しても、敏感に対応している。これらは伝統的な共和党政権の安全保障政策のように見える。
目下のところ、トランプ政権の安全保障政策は、オバマ政権とは異なる様を見せている。
第一に、オバマ政権がまずは対話を重んじたのに対して、トランプ政権は目下のところそうした傾向を見せていない。第二に、オバマ政権が安全保障面でも、日韓、日豪など、同盟国間のマルチな枠組みを重視したのに対して、トランプ政権は必ずしもそうではない。西太平洋でも、オバマ政権は同盟国間の安全保障面での関係構築を重視したが、トランプ政権は日米、米韓同盟をそれぞれ重視するものの、マルチな関係性の形成には関心が強くないように見える。
さらに、非伝統的安全保障の領域では、その傾向がいっそう顕著になる。
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