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[1]幼稚園の教育勅語暗唱は戦前でも異様だった

早川タダノリ 編集者

教育勅語を唱和する塚本幼稚園の園児たち=2006年拡大教育勅語を唱和する塚本幼稚園の園児たち=2006年

愛国幼稚園報道のインパクト

 「あんた見た? あの幼稚園のテレビ」
 「見た見た。あれは子どもがかわいそうだわよ」
 「ホント昔みたいでヤだねえ」
 「あんなのやらせるのは、大人の自己満足よ」
 「なんで昭恵さんはあんなのに名前貸しただろうねー」

 森友学園事件の報道が始まって2週間ほどたった2017年3月はじめ、テレビのワイドショーでは何度も「教育勅語」を唱和し、軍歌を歌い、「安倍首相ガンバレ」を宣誓する塚本幼稚園の動画が流された。偶然乗ったバスに座っていた老婦人二人が上のような会話をしていて驚いた。

 その週のうちに、タクシーの運転手さんや、理髪店の大将、病院の待合室の高齢者、居酒屋の隣のテーブルにいた背広サラリーマン御一行、サウナのおじさん――などなどのおしゃべりに塚本幼稚園の話題が出てきたのを目の当たりにした。これまで現政権下の「復古調」にはなんの興味もなかったような人びとが、世間話レベルで違和感を表明している。

 世論はつくられるのだなあ……という感をあらたにしたが、統制された子どもたちの異様な動画のインパクトも大きく作用して「なんか最近おかしくないか?」という率直な不安感もまた醸成されていると感じる。

 とりわけ「安倍晋三記念小学校」というネーミングや、現職首相夫人が名誉校長をつとめていたことが報じられるにいたって、政権中枢そのものがおそろしい劣化・退化をきたしているのではないかと予感した人も少なくないだろう。

 こうした世間の空気を敏感に読み取ってか、これまで森友学園・塚本幼稚園を応援してきた保守系文化人たちが一斉に遁走するという珍事も引き起こされている。

 そもそも安倍晋三首相からして、「いわば私の考え方に非常に共鳴している方でですね」「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしいという話を聞いている」と国会答弁で述べていたにも関わらず、数日後には「非常にしつこい」「教育者としてはいかがなものか」と、見事な手のひら返しを見せてくれた。

 この無情な急転向をお手本にしてか、かつてこの幼稚園に講師として招かれた百田尚樹、曽野綾子、平沼赳夫、青山繁晴、竹田恒泰、渡部昇一、櫻井よしこ、中山成彬といった人びとが「推薦人に名前を勝手に使われた」(竹田恒泰)と見苦しい言いわけをくりだしたり、森本学園については公式にはいっさい言及しない(櫻井よしこ)などの沈黙を決めこんでいる。

 こうした「愛国者」たちの無情ぶりを、森友学園事件はみごとに浮き彫りにしたと言えよう。政局の行く末よりも、社会的な意識を変化させたことのほうが意味は大きい。

敗戦前までの「教育勅語」暗唱

 塚本幼稚園の園児たちが声を揃えて「教育勅語」を暗唱するさまに、多くの人が違和感を覚え、あたかもそこだけが〈戦前〉であるかのような感を抱いたことだろう。しかし、幼稚園児が声を張り上げ唱える姿は、敗戦前までの一般的な勅語暗唱・勅語奉読のスタイルからしても異様なものだった。 ・・・ログインして読む
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筆者

早川タダノリ

早川タダノリ(はやかわ・ただのり) 編集者

1974年生まれ。国民統合の技術としての各種イデオロギーに関心を持ち、戦前・戦時の大衆雑誌や政府によるプロパガンダ類をはじめ、原発推進関連のチラシ、広告類、恥ずかしい「日本スゴイ」本などを蒐集。著書に『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)、『「愛国」の技法――神国日本の愛のかたち』『「日本スゴイ」のディストピア――戦時下自画自賛の系譜』(ともに青弓社)、『原発ユートピア日本』(合同出版)、『憎悪の広告――右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版、能川元一氏と共著)など。