メルケル首相は「不確実性の時代には安定と経験が最も重要」と説いて選挙を闘うだろう
2017年04月10日
2005年に社会民主党(SPD)がキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と大連立政権を樹立させたことで、両党の政策の違いは見えなくなった。このことは、SPDへの支持率を一段と引き下げた。前党首のガブリエルは、シュレーダーの「アゲンダ2010」を支持したため、党内左派からは厳しい目で見られていた。
これに対し、今年首相候補となったマルティン・シュルツは、「アゲンダ2010は誤りだった。誤りは修正するべきだ」と述べ、シュレーダー改革を部分的に見直す方針を明らかにしている。
彼はシュレーダーが大幅に短くした失業援助金の給付期間を延長することなどを提案している。シュルツは今年6月の党大会で具体的な政策を発表する方針だが、SPDが「富の再配分による、所得格差の是正」を目指す可能性が強い。
シュルツは政治家としての経歴の大半を欧州議会で過ごし、ドイツの州や中央政界で働いた経験がない。つまりSPD左派にとって、シュルツは「アゲンダ2010で汚染されていない政治家」であり、同党のネオリベラル色を洗い落とすという任務には最適の人物なのである。
私は1990年からドイツに住んで、この国の政局について原稿を書いているが、シュレーダーが2005年の選挙で一敗地にまみれて以来、SPDがこれほど熱い興奮に包まれているのを見たのは、初めてである。SPDの幹部たちすら、今年1月以来の人気の高まりには、驚いているほどだ。
SPD支持者の増加の背景には、外国で右派ポピュリズムが高まっていることに対するドイツ人の反発もある。
昨年以来、世界はBREXIT、トランプの大統領就任という、想定外の事態を立て続けに経験した。ドイツは第2次世界大戦で周辺国に甚大な被害を与えたことについての反省から、戦後は欧州統合を積極的に推進するとともに、人権尊重や差別の禁止などを憲法に明記してきた。
EU創設国の1国である隣国フランスでも反EU、反移民を標榜(ひょうぼう)する右派ポピュリスト政党が勢力を強めつつある今、ドイツ人の心の中に「我々が防波堤にならなくてはならない」という意識が育っていることは確かだ。「シュルツ旋風」は、トランプ主義に対するドイツ人の反発心の表れである。
だがシュルツにとっての選挙戦も容易ではない。
ドイツでも近年では支持政党が固まっていない浮動票の比率が高まっているからだ。政党支持率は、テロ事件やスキャンダルによって猫の目のように変化する。
たとえばドイツ人の間では、テロに対する不安感が強まっている。去年12月にベルリンでテロ組織イスラム国(IS)の信奉者が、大型トラックでクリスマス市場に突っ込んで多数の市民を殺傷した事件に表れているように、イスラム過激派による無差別テロがドイツでも起き始めている。
トルコとEUが結んだ合意のために、現在ドイツにやって来る難民の数は、2015年に比べると大幅に減っているが、昨年トルコで起きたクーデター未遂事件以来、ドイツ・EUとトルコとの関係は険悪化の一途をたどっている。
国際情勢が目まぐるしく変わる中、新しい実験より安定を望む市民は少なくない。そのことを示したのが、3月26日にドイツ南西部のザールラント州で行われた州議会選挙だった。
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