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[23]平穏な韓国社会、しかし「準備」はある

伊東順子 フリーライター・翻訳業

北朝鮮の砲撃を受け、破壊された大延坪島の家屋など=東亜日報提供 201011北朝鮮の砲撃を受けた大延坪島= 2010年11月、提供・東亜日報

「韓国は平穏なり」?

 先日、韓国から日本に戻ってくると、いろんな人に「韓国はどう? 大丈夫なの?」と聞かれた。ああ、これは「戦争」のことなんだと、日本のワイドショーを見てわかった。つい最近まで韓国前大統領の整形問題について解説していた専門家が、今回は北朝鮮のミサイルについて語っている。

 「韓国? まあ、普通ですよ」と答えると、意外だという表情をする人もいる。

 「え、朝鮮半島は危機的だというのに、『普通』ってどういうこと?」

 普通というのは、いつもの日常が淡々とあるということだ。大人は満員の地下鉄で会社に行き、子供たちは深夜まで塾に通い、母親たちはランチで教育情報を交換する。もちろん、5月に大統領選挙という大イベントがあるので、その意味では普段よりも人々は少し興奮しているが、日本のメディアやネット民がいうような「朝鮮半島有事の緊張感」はない。

 たとえば、ふだんは定期的に予定されている「民間防衛訓練」が繰り上げて行われるとか、予備軍が緊急招集されるとか、テロ対策のための軍隊が配備されるとか、そういう目立った動きは全く無い。さらに人々の意識に関していえば、過去の類似の状況に比べても、ゆるい。

 私が25年ほど韓国で暮らして、もっとも緊張した記憶といえば、やはり1994年の「北朝鮮核危機」だ。あの時はさすがの私も、韓国人の友人たちの助言に従い、手持ちの現金を銀行から引き出して米ドルや日本円に替えた。その後では、2010年の北朝鮮軍による大延坪島砲撃だろうか。まさかの民間人居住区への攻撃、島民の避難という事態は衝撃的で、一部では水やラーメンの買い占めなどもあったようだ。

 それらに比べると、今は平穏だ。一部に特別な動きをするグループもあるが、それは目立たないし、報道されることもない(これについては後でふれる)。

 ただ、韓国の市民社会の平穏さが、イコール朝鮮半島有事の可能性を否定するわけでは、もちろんない。韓国人の戦争に対する警戒心は、日本人のメディアが飛びつくネタ(防毒マスクとか)とは別のところで、社会のシステムに組み込まれ、文化にも浸透している。

日本人にはわかりにくい、韓国の民間防衛システム

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