イメージを一転させた光州事件記念式典での「肉声」
2017年05月24日
先日、韓国大統領選挙の結果をうけた直後の朝日新聞のインタビューに、予想通りの圧勝は李明博大統領の時を思い出す、と答えた。
1990年に韓国で暮らしはじめて以来、幾つもの大統領選挙を経験したが、その多くは歴史に残る名勝負で、ハラハラしながら夜通し開票結果を見守った。ところが、9年前と今回に限っては、事前の予想が無難に的中した形となった。あの時は金大中―盧武鉉と2代続きの「革新政権」から、今回は李明博―朴槿恵の「保守政権」からの、人々は取りも直さず「政権交代」を望んだ。
「私の立場は安哲秀に近いと思うのだけど、彼では勝てないからね」
「大邱の夫の実家から、保守党に入れろと連日の電話。いつもだったら、それでもいいかなと思うのだけど、今回ばかりは政権交代させないとダメでしょう」
大邱市がある慶尚北道は保守の地盤で、今回でも唯一、自由韓国党の洪準杓氏の得票数がもっとも高かった。とはいえ、普段は「保守党でもいいや」と思っていても、今回は革新政党に投票した人が多かった。それはイデオロギーというよりは、現在の政権を継続させることへの「NO」だった。
したがって、文在寅氏は圧勝したものの、彼個人や彼の党が圧倒的支持を集めたわけではなかった。少なくとも選挙直後はそんなムードだった。ところが、ある日を境に、韓国国民の新大統領への思いは劇的に変化した。大統領支持率も5月22日の世論調査で 81・6%に跳ね上がった。
5月18日のことだった。この日、就任して9日目の新大統領は韓国南部、全羅南道の光州市で行われた光州民主化運動(「光州事件」、韓国では5・18=オー・イルパルともいう)37周年の記念式典に参加した。そこで大統領就任後としては初めて、国民の前で長い演説をした。
「光州事件」とは1980年5月に、光州市で起きた学生と市民のデモを軍部が武力をもって弾圧し、おびただしい数の死傷者を出した、韓国の現代史上で最も悲劇的とも言われる事件である。式典では、そこで父親を失った遺族代表の女性が泣きながら思いを語り、いたたまれなくなった大統領は席を立ち、その女性のもとに駆け寄った。その映像が演説とともにニュースやインターネットを通じて拡散し、韓国民の間で大反響を呼んだ。
特に印象的だったのは、彼を支持しなかった人々が、次々に翻意の表明を始めたことだ。
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