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党の立て直し図るトルコ・エルドアン大統領

2019年11月の大統領制移行に向け支持者の取り込みに懸命

今井宏平 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究員

 

改憲賛成派の集会には多くの有権者たちが集まった=4月15日、イスタンブール

国民投票は僅差での勝利

 トルコ共和国では2017年4月16日に、議院内閣制から大統領制への移行を含む憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。その結果、賛成51.4%、反対48.5%という賛成多数で憲法が改正されることになった。1923年の建国以来、議院内閣制を採用してきたトルコにおいて、大統領制への移行は大きな政治的改革である。そのため、大統領制への移行は約1年半後の2019年11月3日からとされた。

 今回の国民投票の結果を見ると、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と単独与党の公正発展党が憲法改正を後押ししていたにもかかわらず、賛成票が思ったより伸び悩み、僅差での勝利となった。その要因はいくつか考えられる。

 まず、公正発展党が国民投票実施に当たり、第四政党のナショナリスト政党、民族主義者行動党と協力した点である。民族主義者行動党は2015年11月の選挙で大きく議席を減らしており、党内でデヴレット・バフチェリ党首に対する風当たりが強くなっていた。また、昨年7月15日のクーデタ未遂事件に際して、エルドアン大統領が強いリーダーシップを見せ、民族主義者行動党の支持者の一部が公正発展党に流れたと見られていた。こうした状況の中、バフチェリ党首は、党内での自身の生き残りと民族主義者行動党の支持拡大のためにエルドアン大統領および公正発展党が目指していた憲法改正に協力する姿勢を打ち出した。

 憲法改正に関する国民投票はトルコ大国民議会において550議席中330議席の賛成がなければ実施できない。公正発展党は単独では317議席しか議席を持っていなかったので、憲法改正にはどうしても他党の協力が必要であった。そのため、民族主義者行動党の協力要請は、公正発展党にとっても重要な意味を持っていた。その一方で、民族主義者行動党の支持者の中には、同党が公正発展党と協力する姿勢を鮮明に打ち出したことに反発する有権者もいた。また、反発はしないにしても、エルドアン大統領の権限がこれ以上大きくなることを懸念し、国民投票では賛成にまわらなかった民族主義者行動党の支持者もいたようである。そして、ナショナリスト政党と組んだことで、公正発展党の重要な票田であるクルド人の有権者が公正発展党への支持をためらった可能性も否定できない。クルド人が多い南東部の多くの県で反対が賛成を上回った。

 国民投票を県別にみると、イスタンブル、アンカラ、イズミルという三大都市は反対票が賛成票を上回っていた。これは、世俗的な人々が大統領制に反対したことに加え、敬虔なムスリムであるが高学歴で、EU加盟交渉や人権問題などにも理解を示す都市部の若い保守的エリートを公正発展党がうまく取り込めなかったことが指摘されている。

若手議員を増やし、都市部の保守エリート層にアピール

 薄氷の勝利であったが、国民投票後、エルドアン大統領は着実に大統領制に向けた歩みを進めている。まず、国家非常事態宣言を7月末まで3カ月間延長することが決定した。エルドアン大統領は国家非常事態宣言をいつ解除するか明言しておらず、さらなる延長も考えられる。

 上述したように、大統領制の採用は2019年11月からだが、いくつかの項目はその前から適用される。まず、

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