戻ってきたとしても問題がある。子どもや女性、その家族を支えなければならないのだ
2017年06月27日
イラクで過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致されていた5歳の少女が、3年ぶりに両親の元に戻った――。そんなニュースが6月9日、世界中に配信された。少女の名は、クリスティーナちゃん。
母親のアイーダさんは、テレビのインタビューで、「娘が返ってきた日が、私の人生の最良の日です」と答えている。目の不自由な父親も、喜びの声を地元紙に述べている。
「あっ、あのお母さんだ」
2年半ほど前、私はアルビルの難民キャンプで、この家族に会っていた。
アイーダさん家族はもともと、ハムダニア郡のカラクーシュで暮らしていた。しかし、14年6月、ISがモスルを制圧し、その2カ月後、カラクーシュにまで勢力を拡大した。ISはヤジディ教徒とキリスト教徒を迫害している。アイーダさん一家はキリスト教徒だったため、町を追われることになった。
「ISは、神は偉大なりと叫び、キリスト教徒は殺される前に出ていけと脅しました」
「ISの兵士は、私たちのカバンを調べ、金品、身分証明書、着るものまで盗っていきました。そして、2歳の娘を私の腕から奪いとって、連れていってしまったのです」
難民キャンプで会ったアイーダさんは、泣きながらそう語った。あまりに過酷な体験のためか、当時43歳のアイーダさんは年齢以上に年をとって見えた。
だが、娘のことをあきらめなかった。その後も、娘を取り戻すため、クルド自治政府やマスコミに強く訴え続けた。人を介してISの司令官に会いに行ったこともあったが、娘は返してもらえなかった。母は強しというが、よく勇気があったと思う。
人道支援団体もさまざまな支援を申し出たというが、彼女の願いは「娘が一刻も早く返ってほしい」ということだけだった。
その切なる願いが3年ぶりにかなったのだ。
クリスティーナちゃんが家族の元に戻れた背景には、ISの弱体化があると思う。
昨年秋から、イラク政府軍やクルド自治政府軍が中心になり、アメリカが後方支援する形で、ISからのモスル奪還作戦が開始された。モスルは人口180万人のイラク第二の都市。その真ん中を有名なチグリス川が流れている。すでに川の東側の解放はすすみ、西側にも広がっている。
追い詰められたISは、撤退していく際、モスル大学や中心的な病院を破壊していった。
今年3月、ぼくが代表をしているNPO日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)では、この1年間の支援計画を立てるために、イラクのアルビルで会議を開いた。
その会議で、モスルの小児がんセンターのイブンアシール病院の院長や医師たちが窮状を訴えた。
病院は、放火され、医療機器は機能しない。それでも、子どもたちの治療を止めることはできない。
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