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都民ファーストの会は「身体検査」に耐えられるか

国政へ出るなら国際的な信用と通用する常識を身に着けよ

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

小池百合子東京都知事拡大小池百合子東京都知事はこれからどんな「ボール」を投げるのか

 「国際的な信用ということほど日本で誤解されていることはない。と言うよりも、そうした観念が全然頭にないのである。その代わりに国威を宣揚するという考えがあって、これはどういうことかよく解らないが、要するに、外国人に向かって大に威張って見せることらしい」(吉田健一「吉田内閣論」『日本に就て』、ちくま学芸文庫、2011年、284頁)

 政党や政治家を見分けるのにかんたんな基準がある。それはかれらが過去、支持者獲得と票集めのために、人種差別や歴史修正主義といった、近代的な価値観を踏みにじるような、人として越えてはいけない一線を越えたことがあったか否かだ。言葉は人なり。もちろん、このことは政治家に限ったことではなく、人を見る上で重要な目安である。

 勢いやイメージが先行して、まだその実態がよく知られていない政治家の場合、こうした言葉の「身体検査」は、今後の政治を託す上でやっておくに越したことはない。そこで今回は今後への期待を込めて、先般の都議会議員選挙で55人もの当選を果たし圧勝した都民ファーストの会のトップが、過去にどのような言葉を発していたのかを振り返ってみたい。

 というのも、かれらは「国民ファースト」として国政に打って出るとの含みを持たせているからだ。したがって、都民ファーストの会は今後、国際的な信用と常識というものに、十分に配慮しなければならない。彼らの失言が人びとの人権を傷つけるのみならず、国益を害しかねないためだ。都民ファーストの会主要メンバーの一挙手一投足は、もはや東京都民だけの関心事ではないのである。

野田数代表の極右発言と振る舞い

名:
都民ファーストの会代表・野田数氏拡大かつて「国民主権放棄」を主張した野田数・都民ファーストの会代表
 まずは同会代表から観ていこう。現在の都民ファーストの会代表である野田数氏は、2016年の都知事選では小池百合子氏の選挙対策本部責任者を務め、のちに小池氏の東京都知事就任により特別秘書(政策担当)に任命され、都民ファーストの会でも幹事長(一時は代表)を務めていた人物である。

 その彼は、2012年9月に地域政党「東京維新の会」を設立し、9月と10月の都議会ではそれぞれ「日本政府や軍が『従軍慰安婦』なるものを、暴行・脅迫・拉致を行い強制連行した事実はない」などと主張し、「日本国憲法は無効で大日本帝国憲法が現存する」との請願に賛成した過去がある。

 典型的な極右思想の持ち主と受け取られる発言や振る舞いである。 むろん、このままでは国際社会では相手にされないどころか格好の攻撃の的であろう。

 野田氏については『週刊新潮』に「国民主権放棄」のほかにもアントニオ猪木参院議員事務所の「公金横領疑惑」が、また『週刊ポスト』にはポールダンサー嬢らとの「六本木ハレンチ豪遊」が報じられている。

小池百合子氏の「憲法破棄論」「核武装選択肢」発言

 とまれ、何よりも振り返ってみるべきはこの野田氏のボスであり、先ごろまで都民ファーストの会の党首で、地方自治の二元代表制の原則に反するとして党首を辞任した小池百合子都知事の言動だろう。

 都民らの閉塞感の受け皿となった小池都知事は、築地市場の豊洲移転問題等に注目が集まりがちだが、都民ファーストの会が国政を伺おうとしている現在、やはり注目すべきは彼女の国家観である。小池都知事の過去の言動は、果たして国際社会の信用に耐えうるものだろうか。

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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