北朝鮮の核へのこだわり、強靱な体制の過小評価は禁物。対話の道をどう探るか
2017年08月16日
7月に2度の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を強行した北朝鮮に対し、国連安保理は8月5日、新たな国連決議2371号を全会一致で採択した。石炭や鉄鉱石、海産物など輸出禁止▽海外で働く北朝鮮労働者の制限▽北朝鮮との新たな合弁事業などの禁止――などが盛られた今回の決議は、これまでで最も厳しい内容と言ってよい。
これが厳格に履行されれば、北朝鮮の年間総輸出の3分の1に当たる30億ドルの収入減になるという。だが問題は、それで果たして北朝鮮の行動を抑えることができるかどうかである。
実際には、決議を受けた北朝鮮は8月7日、政府声明を発表。「全面排撃する」と反発したうえで、「断固とした正義の行動に移る」「いかなる最終手段も躊躇(ちゅうちょ)しない」と強気の発言を重ね、核・ミサイルの開発を進める姿勢を改める気配はまったくない。
国連決議への北朝鮮の政府声明は、フィリピン・マニラで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の最中に発表された。今回のARFは、北朝鮮によるICBM発射実験直後の開催であり、アメリカのティラーソン国務長官、中国の王毅外相、韓国の康京和外相、日本の河野太郎外相にくわえ、北朝鮮から李容浩外相も参加したため、核・ミサイル問題がどのように扱われるのかが注目された。
最終日の8月8日に発表された議長声明は、北朝鮮のミサイル発射について「深刻な懸念」を表明し、北朝鮮に国連決議の「即時かつ完全」に順守を求めたが、李外相は「本質をわい曲したアメリカの主張が反映されたもの」「核とミサイルは、敵視政策を続けるアメリカへの自衛手段」である反発。
さらに同じ日、朝鮮人民軍戦略軍報道官が「朝鮮人民軍戦略軍はグアム周辺地域を中長距離弾道ミサイル『火星12』で包囲射撃する作戦計画を慎重に検討している」との声明を発表。また、朝鮮人民軍総参謀部報道官も同日、米国が攻撃してくれば、「米本土を含む敵の要塞を一掃する全面戦争」も辞さないと言明するなど、挑発的な言動はやむことがない。
こうした北朝鮮の挑発的姿勢にトランプ大統領は、北朝鮮が米国をこれ以上脅せば、「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と威嚇したが、北朝鮮も「理性を欠いているこのような男と、まともな対話など不可能だ。絶対的な力しか、あの男には通用しない」とするなど、米朝はまさに「舌戦」の様相を呈している。
あらためて指摘するまでもなく、トランプ政権の北朝鮮政策は、北朝鮮に対して、「軍事力の行使も辞さない」という強い姿勢で圧力をかけることによって、北朝鮮の姿勢を変化させようとするものである。
たしかに4月はじめのシリア政府軍へのミサイル攻撃は、金正恩政権に「アメリカは場合によっては軍事力を行使するかもしれない」との認識を持たせたに違いない。くわえて、同月半ばの「空母カールビンソンが朝鮮半島に向かっている」というトランプ大統領のツイートは、朝鮮半島の緊張を一気に高めた。
ところが、その後のアメリカから発せられるメッセージは、どこかちぐはぐなものと言わざるを得ない。カールビンソンは朝鮮半島ではなくインド洋に向かっていることが明らかにされた。また、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)やマティス国防長官は、軍事力を行使すると甚大な被害がもたらされることを強調し、慎重姿勢を示しはじめた。
これを見た北朝鮮が、アメリカにとって朝鮮半島での軍事行動がそれほど容易ではない、と判断しても不思議ではない。だからこそ、北朝鮮は「レッドライン」だと見られていたICBM発射実験を強行したのである。
はっきり明示していなかったとはいえ、一般的には、アメリカ本土に到達する可能性があるICBMを北朝鮮が手にするかどうかが、アメリカにとってのレッドラインであろうと思われていた。それを北朝鮮が超えたにもかかわらず、アメリカは具体的な行動を起こせなかった。それこそがまさに、米国にとって軍事行動がいかに難しいかの証左と言える。
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