大半が無党派。保守ではないが野党も支持しない。判断が難しい総選挙の投票先は?
2017年10月19日
18歳選挙権が導入されて初めての「政権選択選挙」である衆議院選挙が、22日に迫ってきた。
10代の若者が初めて投票をした国政選挙は、昨年あった参院選である。衆院選と違って選挙の時期があらかじめ分かっているため、若者に対する選挙啓発運動も周到におこなわれ、18歳の投票率は20代前半を上回った。ただ、「皆さんの一票は政治を変える」と言われながらも、政権が代わるわけではないため、ある意味、「分かりにくい」選挙でもあった。
選挙の結果によっては政権交代に直結する可能性がある衆院選はその点、「分かりやすい」選挙のはずだが、今回の総選挙は若者にとって、なんとも「分かりにくい」様相を呈している。抜き打ち的に衆議院が解散されて選挙が始まったことへの困惑もあろうが、それ以上に若者たちを混乱させているのは、選挙直前に繰り広げられた政党の離合集散であろう。
はじまりは小池百合子・東京都知事による新党「希望の党」の立ち上げだった。時をおかずに、野党第1党の民進党が希望の党への合流を決め、事実上の解党状態になった。ところが、合流にあたり選別基準が示されたことに反発した民進党のメンバーが立憲民主党に結集した。新党と既成政党とが様々に連携した結果、若者ならずとも、選挙における政党間対立の図式を正確に把握することは容易ではない。
このような混乱した状況のなか、18歳以上の若者はどう、選挙に向き合っているのか。政治や政党に関する意識調査や、各種のデータをもとに考えてみたい。
有権者にとって、選挙のたびに各党の政策について調べることは負荷が高い。それでも、既存の政党であれば、それまでの任期における各党の活動や所属議員の発言などを参照し、各党がどのような政党で、どんな政策を志向しているかについて、おおまかな知識を持つことができる。何党であれば、どのような政策というように、党の「名前」と政策がある程度、結びついているからだ。
これに対し、新しい政党の場合、それ以前の国会での活動や政策形成過程での働きはない。過去を行動を参照して、投票するかどうかを決められないのである。
そこで興味深いのは、今回、新たにできた希望の党が、自らについて「寛容な改革保守」を名乗るだけでなく、「リベラルを排除」するという態度をとることで、「イデオロギー・ラベル」を前面に出したことである。過去の行動を背景とした政党の「名前」で有権者を引きつけられない状況で、「寛容な改革保守」や「リベラル系の排除」というイデオロギー的なメッセージは、自分たちがどのような政党であるかについてのアピールにつながっていく可能性がある。
しかし、このメッセージが有権者に有効に届いているかは心もとない。というのも、現在、このようなイデオロギー・ラベルが有権者の間に浸透しているとは言い難いうえ、近年の世論研究によると、世代によってイデオロギー・ラベルの理解が異なることが指摘されているからだ(遠藤・ジョウ, 2014;竹中, 2014;遠藤・三村・山﨑, 2017)。以下、具体的にみてみよう。
それぞれの政党を「保守」とみるか、「リベラル」とみるか――。世論調査で各政党を「保守」と「リベラル」の線上のどこに位置づけるかたずねると、高齢層では、自民党を「保守」、共産党を「リベラル」と位置づけるの対し、若年層が最も「保守」とみるのは公明党で、最も「リベラル」なのは日本維新の会と、まったく異なる結果となる。
日本維新の会を「リベラル」と位置づけるのは、イデオロギー・ラベルについての通常の理解では到底、考えられない。とはいえ、20代だけでなく、30代や40代も維新の会を共産党よりもリベラルの側に置くのである。明らかに、40代と50代の間で、イデオロギー・ラベル理解の世代間断絶が起きているのである(遠藤・三村・山﨑, 2017)。
ちなみに、日本政治を「保守」と「リベラル」の対立として描きはじめたのは1990年代以降であるが、それ以前の55年体制下で用いられていた「保守」と「革新」というイデオロギー・ラベルについても、同様の傾向があることは確認されている(遠藤・ジョウ, 2014;竹中, 2014)。
このような状況を考えると、希望の党が「リベラルの排除」を唱えながら、維新の会と手を結ぶのは、高齢層にとってはごく自然な現象といえるだろうが、「維新はリベラル」と考えている若年層にとっては、不可解な行動であり、希望の党がどのような政党なのか、混乱させる可能性がある。
それでは、希望の党が自らを「保守」と位置づけたことは、若年層にとってどのような意味を持つだろうか。「若者が保守化している」という最近の報道が正しければ、支持の拡大が期待できそうだが、実際にそうであろうか。
「若者の保守化」の証拠として挙げられるのは、内閣支持率や自民党支持率が他の世代よりも高いという点である。しかし、継続的な世論調査の結果から、筆者は異なる印象を受けている。
図1は、時事通信が毎月実施している「時事世論調査」における内閣支持率と不支持率の推移を示したものである。第2次安倍晋三内閣発足後の2013年1月調査から、2017年9月調査までの月次データである。青色がすべての世代を含む回答者全体の数字、赤色が20代(2016年10月以降は18-29歳)に絞った数字であり、実線が支持率、点線が不支持率を示している。
20代の支持率が全体平均の支持率を超えている時期は少なく、ほとんどの場合、全体平均よりも下方にある。時期によっては10%㌽以上の差があるし、平均しても全体より3.5%㌽低い。この結果だけみても、若者が保守化してるという言説については疑わざるをえない。
点線で示した不支持率にも同様の傾向がみられる。
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