2017年10月24日
午後、坂本龍一をこの5年間にわたって密着・撮影したドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』の試写会。冒頭からタイトルが出るまでの10分くらいの導入部分(正確な時間はわからないけれどそれくらいはあったような気がする)が、なぜこの作品がCODA=最終楽章というタイトルなのかを、息づまるような濃密な時間の持続によって示されていて、強く惹きつけられた。被災したピアノとの出会い。原発被ばく地を体感すること。それらが坂本龍一の想像力を拡げている。僕らがいたあの場所、あの時間に坂本龍一もいたんだと、さまざまな記憶がよみがえる。病を得て以来の、坂本龍一の「音楽すること」と「生きること」と、そして「人間がその一部である自然、宇宙」との関係が黙示録のように語られている。
さらには、『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』、近作の『レヴェナント:蘇えりし者』と、映画音楽と坂本龍一とのかかわりが、タルコフスキーの『惑星ソラリス』の実例をあげて語られるシーンに強く心を揺さぶられた。若干頬の肉がおちた坂本龍一がカメラに向かって独り言のようにボソボソと語る言葉の重みをじっくりと噛みしめる。そういえば坂本さんは「原発再稼働反対」という人々のコールを音楽として聴いていた。そしてそれを音楽にしていた。「共振」というこの感覚の嬉しさ。
10月11日(水) 朝の新幹線で新潟県の長岡へ。新潟5区の選挙区取材。取材のテーマは原発政策である。柏崎刈羽原発の再稼働に慎重姿勢だった泉田裕彦前知事が自民党公認候補として出馬した。それに対して、前魚沼市長の女性候補・大平悦子氏が、野党統一候補という形で正面からぶつかるという構図だ。
柏崎刈羽原発の現場に行く。原発の稼働は福島の炉心溶融事故があった2011年3月以降もずっと止まったままだ。お天気が良く、原発敷地に隣接する海岸にはサーファーたちが繰り出していて気持ちよさそうに波に乗っていた。ウェットスーツを着ておにぎりを頬張っている女性のサーファーがいたので話しかけると、「海が汚染されると困るので、原発は動いて欲しくはないですよ。けれど今は会社をさぼってここに来ているので、撮影は勘弁してね」と取材を断られた。柏崎刈羽原発6号機、7号機については、今月4日に原子力規制委員会が条件付きで事実上の再稼働「合格」サインを出した。東京電力福島第一原発炉心溶融事故は一体何であり続けているのか。ドキュメンタリー映画『CODA』はそのことを想起させてくれた。
自民党新潟県連の県議と、そして知事時代に「泉田応援団」的な動きをしていた市民グループのメンバーで、福島県からの自主避難者Iさんにインタビュー。Iさんはさすがに困惑していた。それはそうだろう。福島の事故の惨状に理解を示し、原発再稼働にも厳しい姿勢だったはずの前知事が、原発再稼働推進の自民党から出ると言うのだから。変節、心変わりと言われても、一定数の人々は「残念ながらその通り」と言うかもしれない。
10月12日(木) 前知事の泉田候補にインタビュー。「基本姿勢は全く変わっていない」と。その後に野党候補の選挙運動の取材に回る。森ゆうこ参議院議員が応援に駆けつけている。候補者自身はどちらかと言うと控えめな印象だったが、対照的に応援の森議員は攻撃的だ。「ダークサイドに落ちたな、泉田裕彦」。
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