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対立軸は「ファシズム vs デモクラシー」

立憲民主の躍進はデモクラシー派に活力、さらに深まった「熱狂なきファシズム」

想田和弘 映画作家

大義も意味もない解散

拡大候補者や党幹部らの最後の訴えを聞く有権者たち=10月21日午後6時14分、東京都内
 うんざりするかもしれないが、はじめに強調しておかなければならないことがある。今回の衆議院総選挙は、安倍晋三首相による解散権の濫用によって始まった、大義も意味もないものだったということである。

 野党による臨時国会の開催要求は、憲法の規定に沿ったものだった。首相には、臨時国会を開くという憲法上の義務があった。ところが首相は開催を引き伸ばし、ようやく国会を開いたかと思ったら、冒頭で解散してしまった。明らかな憲法違反である。国会で森友・加計学園問題の追及をされるのが、よほど嫌だったのだろう。

 しかしそういう私的な理由で血税600億円を無駄に費やした人間が、「日本を守り抜く」とは何かの冗談にしか聞こえない。選挙にかかった税金を弁償してほしいくらいである。主権者の皆さんには、まずはこの点を大前提として忘れないでいただきたい。

 選挙の結果は、自民・公明の与党が313議席を獲得。衆議院の3分の2以上を占めた。とはいえ、以前の議席数は318だから5議席だけ減らしている。つまりほぼ現状維持。ますますもって、行う意味のない選挙であった。

 だが、選挙が強行されたことで、以前よりも鮮明になったこともある。

 その最も大きなものは、「ファシズム対デモクラシー」という対立軸であろう。

 僕は安倍政権誕生後の2013年頃から「熱狂なきファシズム」という言葉を使い、日本における全体主義の台頭について警告してきた。無関心と白けムードの中、低温ヤケドのごとく、じわじわこそこそと進行する全体主義である。

安倍政権は「全体主義」

 僕の「全体主義」の定義はシンプルだ。全体主義とは、個人の思想や人権、多様性を犠牲にしてまでも、社会や国全体の利益や一体感を優先させる思想や態度のことである。

 「安倍政権が全体主義?」と怪訝(けげん)に思う人は、自民党のホームページにある改憲草案を読んでほしい。「言論の自由」を含む個人の自由や権利を制限する彼らの改憲案は、全体主義の定義にぴたりと当てはまる。自民党改憲案が示す理想の国家像は、身近な例でいえば中国や北朝鮮に似ている。

 また、NHKのトップすげ替えや朝日新聞叩きに象徴されるメディア支配や、秘密保護法、共謀罪、安保法制、辺野古移設など、自民党が推し進めてきた政策も全体主義的だ。さらに今回の解散権の濫用含め、国会での議論や折衝を軽視したトップダウンの政治手法も、全体主義的なやり方だと言わざるをえない。

 にもかかわらず、安倍政権は選挙を通じて、日本の主権者から拒絶されることなく、繰り返し信任を得てきた。日本人が積極的に全体主義を望んでいるとは思わないが、少なくとも無意識的に容認ないし黙認していることは疑えないであろう。

 今回の選挙では、当初安倍政権に対抗するための勢力として、あろうことか、小池百合子氏に率いられたもうひとつの全体主義的勢力・希望の党が台頭した(所属議員に自由な発言すら許さぬ極端なトップダウンの希望の党は、全体主義的と言わざるをえない)。その煽りを受けて民進党が分裂・解体し、一時は選挙そのものが「全体主義vs全体主義」という地獄絵図に陥りかけた。

「全体主義vs全体主義」の流れを変えた立憲民主党の立党

 しかしその流れを決定的に変えたのが、枝野幸男氏による立憲民主党の立党である。同党は上からの安倍政治を否定し、主権者みんなで作り上げる「下からの民主主義」を提唱。マイノリティーや個人の多様性と権利を守り、行政の情報公開を進め、立憲主義を回復させ、原発ゼロの工程表を作り、生活の現場から経済を立て直すことを訴えた。

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筆者

想田和弘

想田和弘(そうだ・かずひろ) 映画作家

1970 年栃木県生まれ。日米を行き来しつつ、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリー映画を制作。自民党公認候補の選挙戦を描いた「選挙」(2007)、精神科外来をみつめた「精神」(08)、福祉の現場を描いた「Peace」(10)、平田オリザと青年団を追った「演劇1」「演劇2」(12)など、時代の相貌を切りとる作品を発表し続けている。近作は小さな港町の牡蠣養殖業の日常生活をとらえた「牡蠣工場」(15)。著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『熱狂なきファシズム ニッポンの無関心を観察する』(河出書房新社)、『観察する男』(ミシマ社)など。