環境運動家出身、マクロン政権の人気大臣の方向転換をめぐり国内では賛否両論
2017年11月16日
ニコラ・ユロ環境連帯大臣は「現実主義者」なのか、それとも「変節者」か――。就任半年で、原発(58基)数の減少は「困難」と明言。環境運動家らしくない方向転換をした彼に、フランス国内で賛否両論が渦巻いている。
エマニュエル・マクロン大統領は、フランソワ・オランド前大統領の時代に決めた「電力生産における原発の割合を2025年までに現在の72%から50%に減少」を厳守すると選挙キャンペーン中から公約してきた。ユロ自身、7月の初の記者会見ではこれを一歩進め、「2025年までに削減数を最大17基まで減らす」と具体的な数字も挙げてみせた。
ところが、就任から半年がたった11月7日、ユロは主張を一転させる。「この日程(2025年までに50%まで減少)を保持するのは困難だ。化石燃料(石炭、石油)を基盤にした電力生産を推進する場合を除くと」としたうえで、「もし、この2025年の日程を保持するなら、われわれの気候目的を犠牲にしなくてはならない。もし、この日程を遂行するなら、火力発電所を再開しなければならないだろう」と指摘。「現実的」な日程として、「政府は2030年か2035年」を検討中と述べたのである。
要するに、無理して2025年の日程を守ろうとすれば、再生可能なエネルギー(風力や太陽熱)活用がまだ不十分な現況では火力発電所を再開せざるをえず、その結果、温室効果ガス汚染値も増えるというわけである。
ユロが挙げた延期の理由を理解できないわけでもない。彼は環境活動家として、2015年暮れにパリで開催されたCOP21(第21回気候変動枠組み条約締約)ではオランド大統領(当時)の特使として世界を飛び回り、締約国と下交渉した人物だ。地球の気温上昇を1.5度C以下に抑える努力をすることで合意した「パリ協定」にも関与した。専門家の試算によると、目標達成のためには21世紀後半に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにする必要がある。
このユロの方向転換発言を、エコロジストの一部や極右政党・国民戦線(FN)、極左グループ「服従しないフランス」の議員らは早速、「変節」「敗北主義」として批判。マクロン政権に対する攻撃を強め、ユロの辞任を迫っている。日本でも、「電力会社の圧力に屈した」などとユロの「変節ぶり」を伝えるトーンが強い。
だが、実はフランスでは、日本と異なり、原発反対派は少数派だ。1970年代の石油ショックに際し産油国の言いなりにならず、「エネルギーの独立」を掲げて原発推進を続けてきたという歴史が背景がある。フランスの国の理念は、「自由、平等、博愛」だが、フランス人にとって、「独立」という言葉も有無をいわせない説得力がある。
先の大統領選の有力候補者だったFNのマリーヌ・ルペン党首や極左グループ「服従しないフランス」のリーダー、ジャンリュック・メランションは「原発全廃派」だ。大統領選でエコロジストの票獲得を狙った「政治的作戦」の面が強かったが、実際には成功したと言い難い。2012年の大統領でも、3・11の福島原発事故を受けてにわかに原発問題が浮上したが、2回目の投票前におこなわれたTV討論会ではまったく議題にもならなかった。
象徴的な事件がある。
5月の大統領選を約1カ月後に控えた4月6日、パリ市内の仏電力公社(EDF)本社前で、数百人が歓声を上げた。
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