たとえ米国民の過半数が眉をひそめても、自らの支持層を喜ばせれば政治基盤強化になる
2017年12月06日
ワシントンに着任して5カ月がたった。私にとって、それは「5年」の長さにも感じられる喧騒(けんそう)の連続であった。
なにぶんにもニュースの「賞味期限」が短いのだ。
報道官らホワイトハウス高官の相次ぐ辞任、ロシア疑惑のあれこれ、オバマケア改廃をめぐる政界混乱、パリ協定からの離脱、イスラム教徒や移民の規制強化、北朝鮮の核・ミサイル実験――。
目をむくようなスキャンダルや背筋を凍らせる危機がテレビのトップニュースや新聞の1面を飾るが、週をまたがずに新たな騒ぎが起きる。グーグルによると、トランプ大統領が就任した1月20日から9月1日まで、最も多く検索された米国政治絡みのニュースは40件。わずか5.4日の平均〝寿命〟である。
https://www.axios.com/the-insane-news-cycle-of-trumps-presidency-in-one-chart-2487913807.html
ニュースの〝消費者〟であるアメリカの国民は、いま起きていることが何を意味するのか、どう向き合うべきか、咀嚼(そしゃく)し、消化をする間も与えられないうちに、次なるスキャンダルの塊がむりやり口に突っ込まれている。それが実相だ。
これがワシントンでは当たり前の風景なのか。当地の元当局者やジャーナリストにも尋ねてみたが、だれも「こんな状況は異常だ」と口をそろえる。
確かなのは、これらの話題の中心には常にトランプ大統領がいるということだ。たとえネガティブなニュースでも、トランプ氏が話題にのぼらない日はない。存在感こそが最強の武器の政治リーダーとって、これほど有利な環境はあるまい。しかも一つひとつが長続きしないから、致命的ダメージにはなりにくい。
いうまでもなく、政党や官僚機構、財界といった伝統的組織に頼らず、自らに不利なスキャンダルでも注目を浴び続けることでセレブリティーの階段を上り詰められることを自ら実証したトランプ氏の長年の経験が生きている。さらに、不特定多数の大衆とつながるツイッターというツールを得たことも大きい。
「Un predictable(予測不可能)」「Uncertain(不確実)」と形容されるトランプ流にも、なにか一貫したスタイル、変わることのない通奏低音はないのだろうか。
最初にその気配を感じたのは、8月初旬のホワイトハウスの会見場で移民改革について説明していたスティーブン・ミラー補佐官とCNNのジム・アコスタ記者のやりとりを間近で聞いていた時だ。
ミラー氏は共和党の上下院議員のスタッフを経て、トランプ政権発足に伴い31歳の若さで政策担当補佐官として大統領の再側近に抜擢(ばってき)された。首席戦略官を解任されたスティーブン・バノン氏と並ぶホワイトハウスきってのナショナリストで、数々の大統領演説のスピーチライターを務めるほか、イスラム教徒の入国禁止令など物議を醸した政策の立案にも中心的にかかわってきたとされる。
ミラー氏が公表した移民改革も、教育水準、英語の能力、年齢などに基づいてポイントを付与し、ポイントが高い移民を優先に受け入れるというもの。厳格な選別を導入することで永住権付与も10年間で半減させるとした。
かたや質問したアコスタ記者はキューバ移民の2世。果敢に向き合う取材スタイルで知られ、大統領就任前のトランプ氏の記者会見で「偽ニュース」と質問を拒まれ、「不当だ。質問させてください」と食い下がった。この日も丁々発止のやりとりになった。
「多くの移民は米国に来てから英語を身につける。つまり(改革は)英国とオーストラリアの人だけを受け入れるということか」と攻めるアコスタ記者にミラー氏が反撃した。
「英国とオーストラリアからの移民しか英語を話さないなんて。あなたのコスモポリタン・バイアスは衝撃的なレベルに達している」
コスモポリタン・バイアス(Cosmopolitan Bias)?
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