生きづらさを乗り越えるには
2017年12月25日
朝日新聞WEBRONZAは慶応義塾大学とコラボし、ジャーナリズムが直面している様々な問題や、「取材とは何か」といった課題などを慶応大生と一緒に考える授業に取り組んでいます。今回は受講生が書いた原稿の中で「最も優秀」と編集長が判断した原稿を掲載します。
「言葉で人に勇気を与える仕事 慶応大学生が考えるジャーナリスト像 メディア同士の意見のぶつかり合いも見たい」(9月15日付WEBRONZA)
「発達障害」――まったく知らなかった、という人もいれば、漠然としたイメージをお持ちの方もいるだろう。あるいは子供のときのことを思い出して、「あの子、そうだったかもしれないな」と思う人もいるかもしれない。
大人になって、「発達障害」の特性ゆえに生きづらさを感じている人々がいる。特定のこだわりを持ち、コミュニケーションが苦手とされる「自閉症スペクトラム(ASD)」。落ち着きがない、衝動性が強いなどの特性を持つとされる「注意欠如多動障害(ADHD)」。文字の読み書きが苦手とされる「限局性学習障害(LSD)」の3つである。
これらの障害は合わさることもあり、程度もそれぞれ違う。発達障害は、先天的な脳の「機能障害」である。一見「普通」に見えるが、どこか「凸凹」があるということだ。
大人になるまで日常生活に大きな支障がなく、周囲のサポートがあってなんとかうまくやってきた。しかし、大学入学や就業を機に環境が一変することで、仕事はもちろんのこと、周囲の人間関係に支障が出てしまう。そのときはじめて障害が発覚することがある。周囲に認められない、理解してもらえないという失敗体験から「自分はだめな人間なんだ」と思ってしまい、二次的な障害としてうつ病などの精神疾患を併発することもある。
筆者が今回の記事を執筆しようと思ったきっかけ、それは「障害」と向き合いたいと思ったからだ。
そう思ったのは、私自身の経験による。
幼いときからうっかりミスが多い、単純作業が苦手である。とりわけアルバイトではそのような特性が顕著に出てしまい、自己肯定感が低くなっていた。自分を奮い立たせるために本をあさっていた中、「大人のADHD」の存在を知った。その特性が、自分に当てはまるのではないかと考えた。障害とは何かという問題にぶち当たった。自分は一体これからどうすればよいのか。働くことができるのか。どのように生きていけばよいのか。疑問は尽きない。私は自己変革の旅に出た。
まず、社会は発達障害とどのように向き合っているのかを探る。
一度就職したは良いものの、上司との人間関係がうまくいかずに辞職してしまう。株式会社LITALICO(リタリコ)は、そういった問題を抱える発達障害や精神障害などの障害がある、18歳から65歳未満の成人を対象に「LITALICOワークス」という就労移行支援を行っている。
週に何回か通ってもらい、職場と同じように過ごす。その中で独自のテキストに基づくコミュニケーション講座やワークショップを受けたり、スタッフとの面談で、今後について対話を重ね、就職を目指す。
発達障害がある人の就職には、本人だけでなく、企業側が発達障害を理解することが鍵だ。
「障害者雇用促進法」によれば、従業員50人以上の企業すべてに、障害者の「法定雇用率」が定められている(発達障害の場合、医師の診断を受けて「精神障害者保健福祉手帳」を取得すれば、就職する場合に「障害者枠」での採用となるが、地域や主治医によって異なる)。つまり、企業は障害者を「雇用する義務がある」のである。
しかし障害、とりわけ発達障害とどのように向き合っていいのか、わからない企業は多い。「企業さんとの間に入る仕事をしていたんですけれども、『発達障害って空気読めないってこと?』という知識しかない方も多くいらっしゃるので、ゼロから説明していくことを一生懸命やっていました」と、長﨑優美さんは語る。彼女はLITALICOワークスで就労支援を経験した後、現在は本社で採用担当をしている。
「『発達障害っていうのは』という言葉のラベルを外すのが重要だと思っています。企業さんにLITALICOワークスを見に来てもらうと『普通の仕事できるんだ』って言われたりするんです。発達障害のAさん、ではなくて、こういうことが得意で、こういうことが苦手なAさんとして見れることが、障害がなくなるということだと思っています」
社会の側に理解してもらうだけではなく、当人が自分の障害を理解することも重要だ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください