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「安倍一強」から離れゆく2018年

時代は集中から分散へ。自民党、省庁が影響力回復か。野党は独自の政策を持てるか

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

「分散」が始まった2017年

伊勢神宮参拝後に記者会見する安倍首相=1月4日、三重県伊勢市伊勢神宮参拝後に記者会見する安倍首相=1月4日、三重県伊勢市

 2018年が幕を開けた。振り返れば、2017年の日本政治は、年の初めまで高水準を維持していた安倍晋三内閣の支持率が、森友・加計学園問題で一挙に低落したことで、新たな局面に入っていった。

 これに反転攻勢をかけるため、安倍首相が秋に断行した衆院解散・総選挙では、野党第1党だった民進党が解体。かわって希望の党、立憲民主党が結成されたが、いずれも民進党を超える勢力にはならず、自民党は選挙前と同様、圧倒的な議席を維持し続けるという帰結となった。

 だが、内閣支持率はその後も年初ほどの高水準には戻っていない。くわえて、8月の内閣改造で安倍首相が自らに批判的な議員を閣僚を取りこんだ結果、独自の存在感をもつ大臣が複数登場し、今年の自民党総裁選への出馬も狙っている。安倍首相をめぐる情勢は明らかに変わりつつある。

 野党に目を転じれば、民進党にかわって野党第1党になった立憲民主党は、安保法制反対であれ、原発反対であれ、公約がやや抽象的で、いまだ政権担当能力があるとは言いがたい。その一方で、希望の党、日本維新の会など他の野党は、憲法問題などで独自の動きを見せる気配を漂わす。

 まとめると、与党は「安倍一強」から、野党は「民進党一弱」から、それぞれ「分散」し始めたのが、2017年であった。

欧米が牽引する時代はすでに過去

 視点を広げ、世界を見渡せば、先進国の多くでは、国内の経済格差の増大によって、ポピュリズムが内政を席巻し、各国とも内政重視に転じざるを得なくなっている。たとえばアメリカは、トランプ大統領のもと、国際社会での主導権の発揮を半ば放棄している。また、イギリスの離脱交渉が進みつつあるEUでも、域内の結束を最大の課題とし、域外への関心は低下している。

 結果として、中国やロシアなど、自由を抑圧する権威主義的な政治体制をとる国々が、本国を中心として、地理的な意味で周辺国へ影響力を広げている。

 もはや、アメリカ、ヨーロッパが中心となり、経済力と政治的価値で世界で牽引(けんいん)する時代は過ぎ去りつつある。世界はどこへ向かうのか、見通せないのが現状なのである。世界もまた、影響力の中心であった欧米からの「分散」が、主たる潮流となっている。

集中のモメンタムをどう持つかがポイント

 このように、いたるところで権力が中心から分散する状況のなか、2018年の日本政治はどうなるか。分散に対し、集中のモメンタムをどう持つかが、秩序の安定のためのポイントになるであろう。以下、具体的に見ていこう。

 日本外交においては、日米同盟と、APEC(アジア太平洋経済協力会議)やTPP(環太平洋経済連携協定)といったアジア太平洋地域との連携がその主軸となるだろうが、これへの最大の試練が北朝鮮の核・ミサイル問題である。かつてのように、日中韓にアメリカを加えた連携が必ずしも成功しないとすれば、ロシアを含めて、どのような枠組みを新たに構築できるかがカギである。

 このように、分散が進むなかで、新たな集中が見いだせていない背景にあるのは、東アジアの国際関係の不透明さに他ならない。とはいえ、分散は今後、世界中でますます強まるであろう。そうしたなかで、中国の「一帯一路」のように、新しいプラットフォームをつくる試みも繰り返されるであろう。

 「強い」のは首相ではなく自民党

 国内政治はどうか。今年の秋には自民党の総裁選挙がある。安倍総裁が三選されるかどうかはともかく、内閣支持率がよほど高水準で安定しない限り、これまでのように安倍総裁を頂点に党と政権が一体化することにはならないだろう。

 2012年の総選挙に勝利して与党に返り咲いた後の自民党に求められたのは、求心力の強化であった。そこでは集中という趨勢(すうせい)が前面に出ていた。野党に再度、転落しないことこそが至上命令であり、安倍首相への対抗勢力は、自民党の力をそぎ、党を野党に転落させる「危険分子」とみられたのである。

 だが、森友・加計学園問題を機に、首相との個人的関係が権力を左右する構造が安倍政権の特徴ではないかという疑念が噴出した。これが安倍首相に対する強い不信感を呼びさまし、内閣支持率の低下をもたらした。昨秋の総選挙の際、各地の選挙区で自民党の候補者たちは、「反安倍」の有権者心理を感じ取っていたに違いない。

 確かに安倍首相は選挙には勝った。しかし、それは安倍首相だからではない。自民党の安定感こそが勝利の最大の理由であったと見るべきである。安倍首相への集中よりも、党への分散が進む機運が見え隠れする。

政権の軍門にくだった財務省

 政権と各省との関係でも、集中よりも分散が目につく。

 2012年の自民党への政権交代と内閣人事局の設置を機に、首相官邸が各省に対して強い統制力を発揮するようになったことは、すでによく知られている。劇的に影響力を低下させたのは、財務省である。もはや、財政秩序の維持と主計局の予算編成権を盾に政権を左右する力は、財務省にはなくなった。政権は財政を自らの生命線を死守するためのツールと見なし、財務省は今や、財政・政治状況に応じて、限界ある予算額ぎりぎりまで、政権のために必要な予算を確保する技術者集団となった。

 だが、財務省が政権の軍門にくだったからといって、官僚制全体が政権に従ったわけではない。

 たとえば森友学園問題における会計検査院報告は、この組織が現在の状況下で、政権からできる限りの独立性を保ったことを示している。だからこそ、そこで指摘された改善項目にそって、安倍政権は早期に文書管理のルールを変更することを決めざるをえなかったのである。

政策のアイデアで自立を目指す各省

 経済産業省の若手チームが作成した報告書「不安な個人、立ちすくむ国家」が、多方面で話題となったことも記憶に新しい。逆説的だが、この報告書の意義は、問題提起はしたが、官邸の政策に取り込まれていない点にある。

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