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北朝鮮問題への取り組みは見直しのとき

限界がみえる経済制裁。直接的な脅威を招く軍事オプション。日本が今するべきこととは

秋山昌廣 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

新年早々のビッグニュース

板門店の「平和の家」で握手する韓国代表団(右側)と北朝鮮代表団=2018年1月9日拡大板門店の「平和の家」で握手する韓国代表団(右側)と北朝鮮代表団=2018年1月9日

 新年早々、南北朝鮮の対話が始まるというビッグニュースが飛び込んできた。

 韓国の文在寅大統領は、就任直後から北朝鮮との対話を呼びかけていたが、北朝鮮からはまったく無視をされるどころか、厳しい批判を受けてきた。今回、手のひらを反すように北が変化したのは、北としても厳しい経済制裁や軍事的プレッシャーへの対応が必要となり、自国を取り巻く困難な環境を打開するため、南北対話に活路を見いだそうとしたからであろう。

 これに対して、日本政府は南北対話に懸念を表明した。日米韓の結束が重要であること、制裁の強化や北に対するプレッシャーは引き続き維持すべきことなどを重視し、南北対話はこれらにマイナスの効果をもたらすと懸念したからである。しかし、南北対話に対するこの日本政府の対応は、支持されるべきであろうか。

 私は冷戦終結後の1990年代に防衛庁(当時)に奉職し、幹部として日米同盟の再確認プロセスと北朝鮮核開発疑惑問題に長くかかわった。98年に防衛事務次官を退官した後、いくつかの民間シンクタンクにおいて安全保障・外交政策の研究に従事し、現在は秋山アソシエイツ代表および安全保障・外交政策研究会代表を務めている。そこで、深刻化してきた北朝鮮問題について、「日本の安全保障の観点」からどのように対応するのがよいか、あらためて考えてみたい。

トランプ大統領も態度を豹変

 日本と同じ懸念を持っていると考えられた米国は、今回、この対話を歓迎すると表明するに至った。トランプ大統領は文大統領を100%支持するとまで言った。過去1年間、北朝鮮との対話をしばしば試みようとしたティラーソン国務長官を冷たくあしらい、北との対話などまったく無駄といわんばかりの発言をしてきたトランプ大統領だけに、まさに態度を豹変(ひょうへん)させたとも言える。

 1月9日の南北対話では、北朝鮮の平昌オリンピック参加が確定したほか、対話の継続が確認されたという。その後の文大統領とトランプ大統領の電話会談でも、オリンピックをこえて対話が継続され、これが北朝鮮の非核化に向けた米朝対話につながる可能性があることが確認されたと報道された。さらに、対話がおこなわれている限り、米韓による軍事演習も控えると大統領が語ったとも報じられている。

 米国が今回の南北対話に対し、言葉だけとはいえ、ここまで肯定的に反応するとは思わなかったが、硬軟織り交ぜたこれまでのトランプの発言から考えれば、今回の発言(行動ではなく)は想定の範囲内と言うべきであろう。

米朝対話にはつながらない

 しかし、冷静に分析すれば、この対話が近い将来、首尾よく米朝対話につながるとは思えない。北朝鮮としては、自国の安全保障、特に米国からの攻撃に対して自国を守るためには、核兵器の保有と長距離弾道ミサイルの保持は放棄できない絶対的なものと考えているからである。

 しかも、経緯はともかくとして、核開発も弾道ミサイル開発も、今やほぼ100%に近いところまで来たのである。それをここであきらめるということは考えにくい。現に南北対話でも、核・ミサイル開発に関しては一歩も引かない姿勢を示した。

 北朝鮮は、現在、米国ないし韓国からの軍事的攻撃の可能性を恐れつつも、ソウルを火の海にしうる陸上戦力にくわえ、核開発とミサイル開発により、かなりの程度、北に対する攻撃が抑止されていることを実感しているはずである。北朝鮮の立場、金正恩の立場からすれば、核とミサイルを手放せば米国ないし韓国に確実に打ち倒されると思うのは自然であろう。イラクとリビアの旧体制が崩壊した過程から、北朝鮮はそれを学習したと考える。

 北朝鮮が核兵器開発や米国まで届く長距離弾道ミサイルの開発を放棄しないのであれば、米国は北との対話に応じることは難しくなる。トランプ大統領が何を考えているかは分からないが、米国のこれまでの北朝鮮への態度からすると、この点は核心であり、安易な妥協はないだろう。平昌オリンピックまでは、この争点は曖昧(あいまい)なまま別の課題を中心に対話が続き、オリンピック後に、核開発と弾道ミサイル開発の問題が争点となり、結局、米朝の緊張関係が再来すると予想する。

南北対話の背後には別の意図

 北朝鮮は結局のところ、極度に緊張が高まった情勢を一時的に緩和し、時間を稼いで核開発と長距離弾道ミサイルの最終段階の開発を進めようと考えたのであろうか。それとも、ただちに米朝対話にまではいかなくても、緊張のエスカレーションはやめて、対話による問題の解決を追求しようとしたのであろうか。

 日本政府が今回の対話再開に懸念を抱いたのは、北朝鮮の意図が前者にあると見たからであり、トランプ大統領が逆に肯定的にとらえたのは、北朝鮮が後者の立場のなかで核開発とミサイル開発を放棄する可能性に期待したからであろう。しかし、北朝鮮は情勢が緩和しようがしまいが、核・ミサイルの最終段階の開発はおこなうであろう。そして、核・ミサイル開発の放棄は体制の崩壊につながると考えている以上、そこに踏み切ることはできないと見る。つまり、北朝鮮が対話に踏み切ったのは、おそらく別の意図があると考える。

 結局、平昌オリンピックの後、これまでの状況に後戻りするか、少なくとも北朝鮮が核とミサイル開発の放棄をしない状態の下、膠着(こうちゃく)状態が続く蓋然(がいぜん)性は高い。とすれば、日本はいったいどう対応するべきなのだろうか。

単なる「脅し」ではない「脅し」

 日本は米国とともに、北朝鮮の非核化と長距離弾道ミサイルの開発を阻止することを、北朝鮮に関する安全保障上の核心的目的としている。このため、国際社会による制裁と米国を中心とした軍事的プレッシャーにより、北朝鮮をして政策を変更させようとしている。

 しかし、北朝鮮は国防の観点、国の安全保障の観点、とりわけ金王朝体制護持の観点から、核開発と長距離弾道ミサイル開発を国家存亡にかかる絶対的な条件と考えている。それゆえ、厳しい経済制裁でいくら経済的にダメージを受けようと、独裁体制国家が降参することはなかなか期待できない。

 もちろん、米軍の軍事的脅威は感じているであろう。しかし、もし攻撃されれば、ソウルを火の海にする、あるいは弾道ミサイルを使った大量破壊兵器で反撃をするという北の「脅し」は単なる「脅し」ではなく、これが小国北朝鮮の対外抑止力として機能しているのであり、また北朝鮮自身がそう認識しているであろうことにこそ、注目すべきである。

 別の言い方をすれば、北朝鮮はこの抑止力により、北が攻撃を受けることは低い、あるいはないと考えている可能性が高いのである。

経済制裁を強化しても破綻しない?

 また、北が政策を変更するまで経済制裁をどんどん強化していけば、北朝鮮がどこかで国家として破綻(はたん)するだろうと期待する向きもあるが、それは本当に現実的なのであろうか。

 まず、中国ないしロシアがそこまで北朝鮮を追い込むことには躊躇(ちゅうちょ)するだろう。仮にかなり強力な経済制裁が国連で決定され、中国とロシアも協力をして実効ある制裁が実施されたとしても、北朝鮮はそれに耐えるのではないかと私は考える。現在のかなり厳しい制裁の中でも、北は経済の立て直しに成果を上げてきたことを認識すべきである。ある程度の、自立経済体制を形成しつつあると見るべきであろう。

 わずかな可能性として、北がプレッシャーに耐えかねて暴発することはありうる。しかし、そもそも北を暴発させてはならず、したがって制裁やプレッシャーにもどこかに限界があると理解すべきである。暴発があった場合の軍事的対応については、注意深く日米韓で詰めておかなければならないことは言うまでもないが、制裁とプレッシャーにより北朝鮮の政策を変更させるという考え方は、結局、米軍の側から軍事力を使った強制措置をとるしかないということになってしまうのではないか。

「間接的」脅威から「直接的」脅威に

 そして、米国から軍事攻撃をしかければ、北朝鮮からの軍事的反撃は避けられない。軍事的反撃が北にとっての抑止力になっている以上、抑止できなかったときに軍事的反撃をしなければ、さらに攻め込まれてしまうからである。

 米国の攻撃の規模にもよるが、北の反撃はソウルを火の海にすることとともに、近年、北が口にし始めた日本へのミサイル攻撃が実行される可能性が高い。核兵器を積むことはないとしても、生物化学兵器が弾頭に装てんされれば、被害は甚大となる。

 我々は一体、戦争をしてまで(国土が武力攻撃を受けることがあっても)、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止することを考えてきたのであろうか。北の脅しに屈してはならないという考えもあろうが、北は軍事的反撃を北の安全保障の抑止力と考えているわけであるから、脅しているわけでもない。ここで重要なことは、現在の北朝鮮問題は日本に対する直接的な武力攻撃の脅威に連動してしまっているという、厳然たる事実である。

 これまで朝鮮半島における有事は、もちろん日本の安全保障にかかわっていたが、それは「間接的」なものだった。だが、今回の一連のプロセスを経て、これが「直接的」な脅威に変質したのだ。すなわち、日本の安全保障に深刻な影響をもたらすようになった点をきちんと認識する必要がある。

先制攻撃しないよう米国に訴えよ

 現実にありそうな米朝の軍事衝突は、すでに米国政府内で検討されていると言われている、それは、米軍による北のミサイル発射基地あるいは核施設を対象とした限定的な攻撃である。これ対して北朝鮮からの軍事的反撃は避けられない。しかし、それもまた、制限的な軍事反撃となる可能性がある。その場合、ソウルを火の海にすることは避け、在韓米軍基地、在日米軍基地、あるいは米韓日の軍事施設(艦船、ミサイル施設など)を対象にすると考えられる。 ・・・ログインして読む
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筆者

秋山昌廣

秋山昌廣(あきやま・まさひろ) 秋山アソシエイツ代表 安全保障・外交政策研究会代表

1940年生まれ。東京大学法学部卒。大蔵省主計局主計官、奈良県警察本部長、東京税関長、防衛庁防衛局長、防衛事務次官などを歴任。退官後、ハーバード大学客員研究員、海洋政策研究財団会長、東京財団理事長、学習院大学および立教大学特任教授を務める。著書に『日米の戦略対話が始まった』(亜紀書房、2002年)