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脱原発は可能か? ゼロ法案のほんとうの狙い

法施行後5年で全原発廃炉。緊急時の再稼働も禁止。国民運動で世論の政策化はできるか

山崎誠 立憲民主党衆議院議員

 立憲民主党は3月9日、すべての原発の速やかな停止、廃止などをうたった「原発ゼロ基本法案(原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案)」を共産党、社民党、自由党ならびに一部の無所属議員とともに国会に提出しました。年明けから全国各地でタウンミーティングを開き、参加者の多くの声を聴いて練り上げた独自の法案です。東京電力福島第一原発事故を引き起こした東日本大震災から7年。「3・11」を意識して急ピッチでつくった法案に込めた狙いは何か。自民党が圧倒的に多数を占める国会で原発ゼロ政策を訴えるすべはあるのか。党エネルギー調査会事務局長として法案づくりを担当した山崎誠・衆議院議員が、原発問題を追い続けて30年余のジャーナリスト・竹内敬二さんを相手に語りました。(構成 WEBRONZA編集部・吉田貴文)

環境が整った立憲民主党

山崎誠さん拡大山崎誠さん

竹内 なぜ、今、原発ゼロ基本法案なのでしょうか。

山崎 原発ゼロを目ざす動きは、立憲民主党の前身ともいえる民進党、さらには民主党時代からずっとありました。2012年暮れの衆院選で落選した私は、飯田哲也さんが所長の環境エネルギー政策研究所で原発や再生可能エネルギー問題に取り組んでいましたが、民進党内の脱原発のグループの方々に呼んでいただき、ディスカッションに参加したりしていました。ただ、党内の様々な勢力との力関係もあり、法律をつくるまでには至りませんでした。立憲民主党になって党内のしがらみがなくなり、一気に法案策定までいったわけです。

竹内 民進党から立憲民主党になり、法案をつくる環境ができたわけですね。

山崎 民進党には電力総連、基幹労連、電機連合といった原子力産業と密接な関わりを持つ労組の支援を強く受けている方々がいましたが、立憲民主党には基本的にそれほど強く影響を受ける議員はいません。幹部以下、所属議員が全員で法案提出に邁進(まいしん)できる環境が整いました。

竹内 この法案の特徴は何でしょうか。

緊急時の再稼働も認めず

竹内敬二さん拡大竹内敬二さん

山崎 全原発の速やかな廃止、停止。法施行から5年以内に廃炉を決定すると明記しているのが最大の特徴です。なにがなんでも原発を止めるという決意を打ち出せたと思います。各地で開いたタウンミーティングでの議論をきっかけに、いろいろと改善も図られました。

竹内 タウンミーティングで変更されたのはどういう点ですか。

山崎 原案にあった、化石燃料の輸入が長期間止まるような緊急時には原発の再稼働を条件付きで認める、という項目を削除しました。「5年以内」もタウンミーティングでの議論を参考に決めました。原案では目標時期が空欄になっていましたが、参加者の「できるだけ早く止めるべきだ」という声をいかし、基本法施行を起点に5年以内とスッキリさせました。

竹内 5年以内に廃炉決定とは相当に早いですね。「できるわけがない」という批判が予想されます。

山崎 法的に最短です。法施行から2年間で既存の関連法令の改廃、廃炉の実施法をつくり、それに基づいて電力会社や原発立地自治体などとの合意形成を3年ぐらいかけてやるイメージです。原発停止は政治的にさらに前倒ししたい。基本法が通ったのだから、定期検査で止まった原発の再稼働はしませんね、ということです。

竹内 タウンミーティングでは活発に意見が出たようですね。

山崎 1月末から3月初めまで18回開催し、約2千人が参加しました。私自身、会場にいて感じたのは、原発の倫理性を問題視する参加者が予想以上に多かったことです。原発の存在自体、原爆を投下された被爆国の日本にふさわしくないという人もいました。

 原発停止による電力供給への不安、その分を再エネでまかなうことへの懸念がほとんどなかったのも意外でした。市民のそうした考えはできるだけ「前文」に盛り込むようにしました。

政府のエネルギー政策は時代遅れ

竹内 政府も原子力規制委員会をつくって安全規制を厳しくしたり、再エネの固定価格買取制度を導入したりしましたが、それではダメだということですか。

山崎 今の自民党、安倍政権のエネルギー政策に私はまったく納得していません。エネルギーミックスという考え方に基づき、2030年に「原発20~22%、再エネ22~24%」と定めていますが、原発を前提にしているので、もっと伸ばせるはずの再エネが抑えられています。世界の趨勢(すうせい)からすると、30年に24%なんて少なすぎます。明らかに時代遅れのエネルギー政策だと思いますね。

竹内 今度の法案には、原発を止めることで不利益を被る電力会社に必要な支援をすることや、原発立地地域の経済に及ぼす影響に配慮することも盛り込まれています。これは重要なことだと思います。一番大事かもしれません。

山崎 原則40年、最長60年まで稼働できる原子炉を、それより短い期間に止めるなら、電力会社に補償しなければならない。我々は電力会社をつぶすつもりはありません。将来、新しいエネルギーを供給するにあたり、既存の電力会社の力が必要になる。そのために補償、損失の補塡(ほてん)はしましょうということです。

 ただ、タウンミーティングでは、国民の反対の声を無視して原発を推進したあげく、福島原発事故を引き起こした電力会社に対し、甘すぎるという指摘も出ました。「原発停止に対する補償、補塡はするけれど、東京電力の福島第一原発事故に対する責任は別で、事故の原因究明、情報公開、責任は厳しく追及する」と説明し、納得してもらいました。いずれは、会計や会社経営の専門家、消費者代表などからなる第三者委員会みたいなものをつくり、適切な補塡を考える仕組みが必要だとも考えています。

小泉元首相の原自連から激励

山崎誠さん拡大山崎誠さん

竹内 法案への反応はどうですか。

山崎 原発ゼロ基本法案をつくるにあたり、いろいろな方々とミーティングを重ねました。小泉純一郎(元首相)さんが顧問をつとめる「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)にも法案を見せて議論しました。あちらも先鋭的な「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表していて、我々の緊急時の再稼働に関する考え方などは厳しい批判を受けましたが、法案の方向については賛同できると励まされました。

 電力会社でつくる電気事業連合会、労組の電力総連、基幹労連、電機連合とも意見交換をしましたが、彼らは「安くてCO₂を出さない原発は必要」という立場を譲りませんでした。私たちからすれば、法案で電力会社にも最大の配慮をしているので、きちんと議論させてもらえれば、理解してもらえると思うのですが……。

野党が原発ゼロ法案を出す意味

 竹内 福島原発事故を受けて2012年に民主党政権は「革新的エネルギー・環境戦略」を策定しています。「2030年代の原発ゼロ」を目標に、40年たった原発の廃炉や、新増設の禁止、自然エネルギーの積極導入などが盛り込まれましたが、この戦略は今回の法案づくりのベースにはなったのですか。

山崎 ほとんど参考にしていません。方向性は正しいと思いますが、原発を止めるタイミングについての考え方はかなり違います。自然エネルギーをめぐる状況もこの数年で劇的に変わりました。

竹内 民主党がこの戦略をまとめたとき、取材をしたのですが、当時としてはなかなかいい内容だと思いました。ただ、民主党が野党になると、中身が骨抜きにされたり、テンポを遅らされたりして、残念でした。まして今、立憲民主党は野党です。画期的な法案を出しても、圧倒的な議席を持つ与党自民党が取り上げる可能性は低いと思います。

 世耕弘成経産相は、資源の乏しい国で責任のある政策とは思えないと批判しています。希望の党の玉木雄一郎代表も、野党の立場で早急な原発ゼロを主張しても現実的ではない、と言っています。野党がこのような法案を出す意味はあるのでしょうか。

山崎 今回は「国民運動」としての側面も意識しています。法案づくりはそのツールです。自分たちも参加して法律を練り上げるという、新しいかたちの運動ができたと思います。

前文に入った感動的な一文

原発ゼロ基本法案の前文。「原発廃止・エネルギー転換の実現は、未来への希望である」という一文がある拡大原発ゼロ基本法案の前文。「原発廃止・エネルギー転換の実現は、未来への希望である」という一文がある

竹内 かつて民主党政権では脱原発政策を進めるため、「討論型世論調査」を実施しました。世論を表に出し、発展させようという試みでしたが、今回は「みんなでつくる法案」という試みですね。条文化は誰が。

山崎 我々が議論してつくった骨子をもとに、衆議院法制局に条文にしてもらいました。ひとつおもしろいことがあったんです。法案は「前文」と6章、「附則」で構成されていますが、「前文」に感動的な一文が入りまして。

竹内 どういうことですか。

山崎 前文は、党の「たたき台」を公開したうえで、グーグルドキュメントで意見を出してもらい、そこに届いた意見やタウンミーティングの声を取り込んで私がまとめました。法制局に修正をお願いしたら、私の原稿にはない感動的な一文が入っていたのです。「原発廃止・エネルギー転換の実現は、未来への希望である」です。

竹内 法制局が書き込んだのですか。

山崎 ええ。タウンミーティングでこの話をすると、参加者も「法制局にもこんな詩人がいるんだ」と感心していました。シンプルだけど神髄を言い当てている文言です。

脱原発の世論の受け皿に

竹内 日本の世論は原発にけっこう厳しいのに、国が脱原発に向かわないひとつの理由は、そうした世論の受け皿となる政党がなかったからだと思います。要するに、日本は世論の政策化ができない国なんです。

 ドイツでは、緑の党という脱原発を主張の中心に置いた政党が、社会民主党(SPD)と連立を組んで脱原発を進めた。日本にはそういう政党がなかったので、世論のフラストレーションが高まっていました。立憲民主党は「緑の党」よりは広い政策の党のイメージですが、脱原発の世論の受け皿になることを狙っているのでしょうか。

山崎 そうなるきっかけにこの法案がなればと思います。今回、法案化のプロセス、たとえば、「党内の審査を通りました」などとツイッターで報告すると、「よかったですね」と反応がある。あるいは、「野党との共同提案の説明に行きます」とつぶやくと、「頑張ってください」と返ってくる。法案を通すのが最終目標ですが、世論の受け皿になる一歩を踏み出せたと思います。

 自民党が法案を無視する対応にでるのは見え見えですが、世論を巻き込んでこれだけの法案ができたのになぜ、無視をするのかという主張は、いろいろな場で訴えていくつもりです。

「原発事故の捉え方を日本は間違っている」

竹内敬二さん拡大竹内敬二さん

 竹内 法案は9日に国会に提出されました。3・11を意識されていると思います。福島原発事故は民主党の菅直人政権下で起きました。山崎さんも当時、民主党の衆議院議員でした。今、この事故をどう捉えていますか。 ・・・ログインして読む
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筆者

山崎誠

山崎誠(やまざき・まこと) 立憲民主党衆議院議員

1962年生まれ。上智大法学部卒業、青山学院大学大学院修士課程修了。横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程後期単位取得退学。建設会社、エンジニアリング会社の勤務を経て、2006年3月より横浜市議2期。2009年8月衆議院選に民主党から立候補して初当選。2012年衆院選に落選後、全国ご当地エネルギー協会などで再生可能エネルギーの普及拡大に取り組んだ。2017年10月の衆議院選で立憲民主党東北ブロック比例で当選。立憲民主党副幹事長。党エネルギー調査会事務局長。