2018年03月22日
大杉漣さんが出演した「アナザースカイ」(日本テレビ系)を見た。ゲストが「海外にある、第2の故郷」を紹介するという番組だ。見ながら、私はとても大きな誤解をしていたことに気づいた。
そのことを書きたいと思う。
番組のことを知ったのは、2月21日、大杉さんの訃報に接した日だった。
「今、ツイッターの速報で見たのだけど」
メッセンジャーの向こうの友人、木村典子さんは絶句した。しばらくして、彼女から電話がかかってきて、意外なことを聞いた。
「実はね、しばらく前に大杉さんのことで問い合わせがあったの。大杉さんがTV番組で再訪したい国に韓国を選んだのだけど、レストランの名前が思い出せないと。それで木村さん、知らないかって」
大杉さんが韓国を? 私たちはとても驚いた。だって、あの時、大杉さんは怒っていたではないか。
番組の中でも語られたように、大杉さんは2011年に日韓共同制作『砂の駅』公演のため、1ヶ月間ほど韓国で暮らしていた。『砂の駅』は「転形劇場」(1968~88)を率いた劇作家・太田省吾の遺作である。台詞をすべて排除した沈黙劇、その中でも有名な駅シリーズの一つだった。公演には大杉漣の他にも品川徹や鈴木理江子といった元劇団員、さらに初演作品に出演した舞踏家の上杉満代も参加した。
日韓共同制作の発案者は韓国の演出家キム・アラさんだった。彼女はその前々年度にも同じく太田作品である『水の駅』『風の駅』を手がけていた。韓国側の出演者はベテラン俳優のペク・ソンヒ、クォン・ソンドク、そして韓国における太田作品の常連であるナム・ミョンニョルと、豪華キャストだった。
太田省吾を知る日韓の人々が集まり、彼のオマージュ作品を作る。セリフのない沈黙劇は、言葉の問題もなく、共同公演に最適だと思った。木村典子さんも生前の太田さんと一緒に韓国で『更地』(太田省吾作・演出)のプロデュース公演を手がけており、その縁もあって日本から韓国に来た出演者のお世話などをしていた。
稽古の期間は約1ヶ月だった。忙しい人々がよく日本を空けられたものだと、その「長さ」に少し驚いた記憶がある。
ところで、その稽古はとても大変なものだった。
そもそも、国をまたいだ共同作業は意志の疎通に時間がかかり、揉め事も多いのが常だ。言語の問題以上に、仕事のやり方の違いが誤解や不信を招く。でも、ともに時間を重ねることで、お互いの中に妥協や共感が生まれていく。ところが、この時の現場はいつもとは逆だった。
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