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財務省改竄問題は日本の民主主義を覚醒させたか?

総辞職か改憲かという究極の二者択一が問われる時

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

安倍晋三首相(中央)と党幹部ら自民党大会で安倍晋三首相(総裁)は万歳三唱をしていたが…=2018年3月25日

今という瞬間の歴史的意義

 財務省は最強の官庁とされている。その財務省と官邸という行政の最中枢が不正行為を行ったかどうかが問われている。

 森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改竄(かいざん)を財務省が認め、内閣支持率が劇的に下がった(3月17-18日の朝日新聞調査で支持率が13%減の31%、不支持率が11%増の48%と、支持不支持が逆転)。これまでも森友学園の疑惑は指摘されていたにもかかわらず、朝日新聞の今回の報道をきっかけにして急速に問題が拡大したのは、公文書の偽造・改竄という犯罪(刑法155・156条違反)が疑われているからである。

 もちろんそれだけが問題なのではない。安倍昭恵夫人の名前も削除されていたことからわかるように、この改竄は首相ないし首相夫人の関与を隠蔽するためだったことが疑われている。財務省官僚が改竄した理由、あるいはそうせざるを得ないような虚偽答弁を佐川宣寿・前財務省理財局長などが行った理由は、それ以外には考えられないからだ。大阪拘置所で不審な長期間の勾留が続けられている籠池泰典・森友学園前理事長に野党議員が接見し、財務省の決裁文書から削除された昭恵夫人の「いい土地ですから、前に進めてください」という言葉は「間違いない」という証言を得たという(3月23日)。財務省文書によって籠池証言の説得力はいやますばかりである。

 つまり、国家神道を想起させる極右的な神道小学校建設のために安倍首相ないしその夫人が便宜を計らって「特例」として国有地を無償同然で払い下げ、それを隠蔽するために公文書改竄という違法行為が行われた――これが疑惑の本質だ。財務省はこの件において家産官僚制の行動様式へと変容してしまっていたということであり、今や近代官僚制の論理によって批判されていることになる(WEBRONZA「加計学園問題における前川喜平前次官の倫理的抵抗――公僕の志は、官僚制の歴史的退行を食い止められるか」などを参照)。財務省近畿財務局の担当者が自殺したのも、「自分の常識が壊された」と親族に話していたと報じられているところからも、この二つの論理の狭間で懊悩したからではないかと推定されている。

 このような事態が起こった源は、憲法学者たちから違憲と指弾された安保法の強行採決によって憲法が蹂躙されたことにある。憲法違反が常態化して「法の支配」が崩落したので、財務省官僚も公文書改竄という違法行為をせざるを得なくなっていたのである。

 要は、日本の政治体制が民主主義から新しい権威主義へと移行し始めたからだ。自民党が企てている改憲が成功すれば、この移行は法的な制度としても完成していくことになる。安保法「成立」によってすでに「法的クーデター」(石川健治東大教授・憲法学)が起こっているが、それが明文改憲による体制変革へと進んでいくわけだ。

 その一歩手前の段階で今回の事態が起きた。体制変革が法的変革よりも先行して進行し始めているがゆえに、それを合法的と糊塗するために公文書が改竄された。だからこの問題は帰するところ、民主主義体制から新権威主義体制への非合法的移行を容認するか、それとも斥けるかということなのだ。

 理性的メディアの努力によってこの当否が公共的な論点となったということが、今という瞬間の歴史的意義である。この問いに対して、「否」と答える人が増えて法の支配や民主主義が甦るのだろうか、それとも結局は「容認」に向かって専制化が進展するのだろうか。

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