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安倍政権では不可能な「政権交代2・0」

「評価」に堪えうる政策はつくれず、人事で各省を締めあげるスタイルも限界に。

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

「越えがたい壁」に直面した安倍政権

 2017年7月、森友・加計学園問題によって安倍晋三内閣の支持率が低下した時点で、筆者は安倍政権が「越えがたい壁」に直面したと論じた。民主党から政権奪取後、内閣官房を強化し、政権から転落する恐怖を自民党に植え付けてこれを従え、内閣と党を横断する「チーム組織」として4年半続いてきた安倍政権が、そのままでは長期政権たり得ないと見た。

 安倍政権はそれまで、1年単位の政策課題を設定し、それを決定するというサイクルをひたすら繰り返すにとどまっていた。だが、森友・加計学園問題が明らかにしたのは、それぞれの政策の検証が必要とされる段階に入ったということであった。そして昨年夏の段階で、安倍政権は到底、こうした検証に堪えうるだけの実質を備えていなかったのである。

 筆者はこれを「政権交代2・0」の段階に入りつつある、と分析した。すなわち、政権交代を果たしただけの「政権交代1・0」から、本格的な「長期政権」を樹立する「政権交代2・0」への移行期である。短期政権から長期政権になるためには、この「壁」を乗り越えなければならないと見たのである。(WEBRONZA「『政権交代2・0』の時代が始まった」参照)。

 基本的な政策決定手続きを踏めない欠陥

佐川宣寿・前国税庁長官(右)に対する衆院予算委での証人喚問=3月27日拡大佐川宣寿・前国税庁長官(右)に対する衆院予算委での証人喚問=3月27日

 そのただ中で再燃した森友学園問題。財務省が森友学園との国有地取引に関する決裁文書を改ざんしたことが発覚したことで、いったんは回復した安倍政権の内閣支持率は、一気に昨年の最低ライン並みに降下した。状況は依然、混沌(こんとん)としているように見えるが、少なくとも二つの方向性は明確である。

 第一に、政権が自ら決定した政策に対する「評価」に初めて直面したのが昨年だったとすれば、現在露呈しているのは、そもそも政策を「評価」する以前の公文書の管理に欠陥があったということである。

 一連の森友問題について、最初に「評価」をつきつけたのは、昨年11月の会計検査院の検査報告であった。森友学園への国有地の売却に関し、必ずしも適切とは認められない点や慎重な調査検討が必要な点があるとした検査報告では、すでに文書管理の不備が指摘されていたが、今年3月の朝日新聞のスクープと財務省の改ざん前後の文書の公表によって、「評価」を通した批判に耐え得ない政権の脆弱(ぜいじゃく)さと、それを糊塗(こと)しようとする姑息(こそく)な手法が明白になった。

 結局のところ、「評価」に堪えうる政策決定過程を作り出そうという努力を、安倍政権は放棄したのである。ことは森友問題だけではない。政権が新しい政策の目玉として打ち出した「働き方改革」にしても、政策の基となる調査データの不備が明らかとなり、裁量労働制に関する部分の法案の撤回に追い込まれた。これもまた、基本的な政策決定手続きを踏むことができない政権の欠陥を、はしなくも示すこととなった。

高まる自民党の影響力

 方向性の第二は、官邸の求心力が低下する半面、自民党の影響力が上昇したことである。

 前述した裁量労働制法案の撤回も、そして安倍首相の平昌五輪開会式出席も、あるいは森友学園の文書公開に消極的な内閣の機先を制し、公開に踏み切らせたのも、自民党の二階俊博幹事長であった。さらに、額賀派の会長交代に象徴されるように、安倍首相が所属する細田派以外の自民党の派閥も、徐々に影響力を拡大しつつある。

 そうしたなか、次第に明らかになりつつあるのは、今の安倍政権のまま長期政権へと転身することは不可能という現実である。

 新しい政策のアイデアについて、当初は多少アラが目立っても、これを突破して進めることができたとしても、それらの政策の実態を検証する段階になると、検証の過程さえ満足にないまま、あちこちから不備が噴出する事態となっている。

外部の有識者の知恵を使えないワケ

 本来ならば、不備の噴出を整然と制御するよう、準備を進めておくべきであった。だが、この政権にはそうした資質が欠けている。こうした場合に必要なのは、ひとつには民間人の閣僚への登用である。ふたつには第三者機関による裁定、すなわち有識者と政権幹部とが交流をしつつ、問題を制御することである。だが、国会での答弁などを聞いていると、どちらも難しいと判断せざるを得ない。

 第一に、政権中枢にいる閣僚も官邸の官僚も、外部の比較的自由な立場にある有識者とのフラットな対話や一定の時間をかけた議論のなかで、局面を打開をするような斬新なアイデアを案出することができそうにないからである。

 第二に、森友学園の文書改ざん問題で明らかになったように、首相官邸と、官邸と深い関係のある官庁の特定部局との間で、公開できない意思決定がかなりの程度行われており、もはやそうした機密を守ること以外に、官邸の打つ手がなくなっていることだ。

官邸も各省も硬直化

 首相官邸に近い官僚ばかりが登用されることで、各省の人事にゆがみが生じていると指摘されて久しい。取り巻きに囲まれていたいという官邸の気分もあるだろうが、そうでもしなければ機密を守ることができなくなりつつあるのではないか。機密に機密を重ね、官邸に近い官僚を登用してこの「機密共同体」に巻き込む。官邸中枢の職員が交代できなくなった結果、省庁の人事そのものに不満がたまり、機能不全に陥っているようにも見えるのである。

 今や明らかに、官邸も各省も硬直化している。そこで生ずるのは、多角的な検討、データの緻密(ちみつ)な整理、国民感情をくみ取った国会での発言、評価手続きの準備といった政策決定に必要な措置を果たさない、怠惰な政策運営である。

 裁量労働制をめぐる不手際にせよ、森友学園問題にせよ、加計学園・獣医学部の設置認可にせよ、こうした怠惰な決定がもたらす「負債」が、限界にきていることを表している。アベノミクスはもちろんのこと、地方創生、一億総活躍などでも今後、同じような問題が噴出してもおかしくはないのである。

人心一新もままならず

 内閣支持率が昨年の最低ライン並みに降下した安倍内閣は、本来ならば、「人心一新」を期し、内閣改造で若手議員や民間人を登用したり、諮問機関で新しい人材を発掘してその発言に耳を傾けたり、斬新な措置が必要である。昨年の時点でそうするべきであったが、今となっては、民間人にしても政権に不用意に近づくことを警戒し始めている。

 こうして、安倍政権は政策構想や人心一新を通じた局面打開がほぼ不可能となり、頼みは希望でしかない「外圧」だけになってしまった。

 それでは、先ほど影響力を回復しつつあると述べた自民党はどうであろうか。

権力から遠心化する社会

 端的に言って、いまだ首相官邸に取って代わるまでの求心力を得たとは言い得ない。現段階では、あくまで幹事長、あるいは政調会部会などの党機関の影響力が一定の範囲で拡大したにとどまる。

 かつてであれば、そうした機関の背後には、各省の政策形成能力が存在した。だが、官邸が各省を直接統制するようになるなか、各省が自発的に自民党に情報を伝え、そこから党が政権を政策面からコントロールするという状況には程遠い。この一年間は、せいぜい自民党が安倍政権の独走を抑えるという範囲で、一定のブレーキをかけるにとどまったと言える。ここにも革新的な政策形成の場はない。

 首相官邸が求心力を失っているのに、党がそれに代わるだけの求心力を持ち得ていない。それが意味するのは、権力の中枢から徐々に遠心化していく社会である。 ・・・ログインして読む
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筆者

牧原出

牧原出(まきはら・いづる) 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

1967年生まれ。東京大学法学部卒。博士(学術)。東京大学法学部助手、東北大学法学部教授、同大学院法学研究科教授を経て2013年4月から現職。主な著書に『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『権力移行』(NHK出版)など。

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