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ハリルホジッチ解任は日仏文化の相違が理由

欧州では聞き慣れない「理由はコミニュケーション」。サッカー監督に求められるものは

山口 昌子 在フランス・ジャーナリスト

解任理由に怒ったわけは

日本代表監督として最後の試合になったウクライナ戦の後、記者会見に臨むハリルホジッチ氏=3月27日、ベルギー・リエージュ拡大日本代表監督として最後の試合になったウクライナ戦の後、記者会見に臨むハリルホジッチ氏=3月27日、ベルギー・リエージュ

 フランス人のハリルホッジ氏がサッカー日本代表監督を電撃解任された“事件”は、結局のところ、日仏文化、日欧文化の相違が最大の要因ではないだろうか。日本サッカー協会は解任の理由を「コミュニケーション」と説明し、同氏が驚いたとか、怒ったとかいった報道があったが、多分、フランスをはじめ欧州では聞き慣れない「理由」だからだろう。

 サッカーの監督の最重要任務は、チームの戦術、戦略を考えることに尽きる。日本人は、どちらかというと個人技が優先される野球、あるいは相撲に親しんできたので、サッカーのような集団スポーツにはまだまだなじみが薄いようで、ついつい野球や相撲と同じように考えているのかもしれいないが、その意味ではつくづくサッカー後進国だと思う。

監督は参謀総長、選手は兵士

 「シュット(撃った)」「アタック(攻撃)」。パリのカフェでよく、男性たちが口角泡を飛ばしてこう叫ぶのを聞いた。いったい何ごと? 化学兵器使用のシリアへの空爆の話かと思ったら、サッカーの話だったということが何度もあった。

 フランスでは、戦争用語もサッカー用語も同じだ。サッカーとは「戦い」であり、チームは「軍隊」なのだ。日本には軍隊がないから、理解しにくいかもしれないが、サッカーの監督は「軍隊」の参謀総長であり、選手は兵士だ。

 言うまでもなく、参謀総長は戦略や戦術を考えるのがつとめだ。その際、いちいち兵士の意見を聞いたり、ご機嫌を取ったりすることはない。そして兵士は、参謀総長がたてた戦術に従って、自分が持てる技術を最大限に発揮して、果敢に戦うのが使命であり任務だ。

 その点からすると、欧州で長く活躍し、日本代表の主将も長年つとめてきた長谷部誠氏のコメントは実に立派だった。まず監督に感謝の言葉を述べ、自分たちの戦力不足を反省していた。欧州での生活で体得した欧州文化の一端である礼儀作法を心得ており、さらにサッカーの何たるかも体得しているからこそのコメントだった。彼が主将に選ばれたのも当然だと思う。

フランスの日本人工場長の話に納得

 日本企業がフランスに次々と進出した1990年代、フランス中部の小都市に工場(従業員数約150人)を開設した某メーカーの取材に行ったときのことだ。工場でたった一人の日本人だった工場長がこういったのを覚えている。

 「入り口が2つあるので、工場長用の方からお入りください」。そして、あいさつもそこそこに、「なんだか、威張っているようで嫌なんですが……」と言いながら、こう続けた。「実は最初、入り口は一つだったのですが、二つ作るべきだ、と言われたので」。

 なんでも着任した当初、日本の工場と同じように、従業員(労働者)と同じ作業服を着て出勤したところ、労働者の代表がやってきて言われたのだそうだ。

 「ムッシュー、あなたは労働者として工場で働くわけではない。工場長なのだから背広にネクタイを着用してくれ。そして、この工場が成功するために将来どうしたらよいかなど、きちんと戦略を考えるべきだ」。

 さらに、食堂でみんなと一緒に昼飯を取ろうとしたら、またもや労働者の代表がやってきて、「やめて下さい。工場長用の食堂でコックを雇って食事をしてください。そして、外部の様々な人を招待し、いろいろな意見を聞いて、参考にしてください」と言ったという。工場長は「目からウロコ」だったと振り返ったが、話を聞いた私も「なるほど」と思ったものだ。

監督が背広にネクタイ着用のワケ

 サッカーの試合時に、監督が背広にネクタイ着用なのも、同じ理屈だ。そういえば、日本代表監督に岡田武史氏が就任したとき、選手と同じウィンドブレイカー姿で試合場にやってきたのが、日本では「親しみやすい」「偉ぶらない」などと好評だったというが、欧州では奇異な印象を与えた。 ・・・ログインして読む
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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在フランス・ジャーナリスト

産経新聞パリ支局長を1990年から2011年までつとめる。著書に『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『フランス人の不思議な頭の中』(KADOKAWA)、『原発大国フランスからの警告』(ワニブックスPLUS新書)、『フランス流テロとの戦い方』(ワニブックスPLUS新書)、『ココ・シャネルの真実』(講談社+α新書)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)など。ボーン・上田記念国際記者賞、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。

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