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国民の利益を損なう「黒」「白」論議(下)

真偽不明の「グレーゾーン」のまま収束させてはいけない森友・加計学園問題

山瀬一彦 元朝日新聞論説副主幹・ジャーナリスト

グレーゾーンで滞留する森友・加計問題

 財務省の福田淳一事務次官によるセクハラ疑惑に絡んで、政府が「黒」「白」をはっきりさせないままグレーゾーンにとどまる弊害を前回、指摘した。今回は、やはりグレーゾーンで滞留している「森友学園問題」と「加計学園問題」を取り上げる。

 言うまでもなく、両問題が抱える最大の問題は、グレーゾーンで滞留している点にある。このまま「黒」「白」論議に終始し、真偽不明の「グレー」のまま収束させてしまうと、政策の正当性と政策に対する国民の信頼が犠牲になり、政府機関が国民のためではなく為政者のために働くことを認めることにつながってしまう。

 これはまさに戦後の日本の国の姿、すなわち民主主義を根底から揺るがす問題である。われわれ国民はそれゆえ、グレーゾーンにとどめている責任をただすことに注力するべきだ。

 まず、このふたつの問題について、整理してみたい。

 問題の核心は個人的な利益誘導疑惑

加計学園岡山理科大の今治キャンパス拡大加計学園岡山理科大の今治キャンパス

 ふたつの問題は、安倍晋三首相の個人的なつながりのある(あるいは、つながりのあった)人物への利益誘導に政策が使われた疑惑がともに核心をなしている。

 加計学園の場合、同学園の獣医学部新設は、国家戦略特区の一環として行われた。同じく獣医学部新設に名乗りを上げた京都産業大学が認められなかった。だから不公平だとする見方もあるが、問題はそこにあるのではない。なぜなら、特区はそもそも特別扱いを認める制度だからだ。

 ただし、特別扱いする前提として、それが国民全体の利益にかなうこと、公益の観点から理にかなう措置であることを、政府は国民に説明しなければならない。結果の不平等を生む分、調査や審議といった手続き面では、公平性や中立性を十分に確保していることを示す必要がある。

 実際、重要な事項に関する調査や審議にあたる諮問会議に関しては、「審議事項に直接の利害関係がある議員は審議及び議決に参加させないようにすることができる」という規定が基本方針に盛り込まれ、閣議決定されている。公平性や中立性を確保するための規定だ。

直接の指示や関与がなくても……

 ところが、諮問会議の議長は安倍首相で、議長を務めている間にも加計学園理事長の加計孝太郎氏と会食やゴルフを重ねていたのだから、疑念が生じるのは当然だ。特区という政策が加計氏の利益の実現に使われたのではないか、公益に資するための政策が私益への誘導にゆがめられたのではないか、という疑念である。 

 安倍首相は「(加計学園の)獣医学部新設について相談や依頼があったことは一切ない」として、計画を初めて知ったのは、加計学園が事業者として認められた2017年1月20日だと主張した。安倍氏の関心はどうやら、自分が直接に指示や関与をしたかどうかにだけあるようだ。

 しかし、直接の指示や関与がなかったとしても、加計学園に決定したことが、手続き面での公平性・中立性はもとより、公益に資する正当なものであったことまで示さない限り、首相は免責されない。安倍氏自身の指示や関与があれば安倍氏の責任が一層、重大になるだけだ。

「記憶する限り」の条件つきグレーゾーン

記者の質問に答える柳瀬唯夫経済産業審議官=4月20日拡大記者の質問に答える柳瀬唯夫経済産業審議官=4月20日

 その安倍首相がこだわっている点、つまり首相の関与についても、疑念が深まっている。加計学園の獣医学部誘致に動いていた今治市と愛媛県の職員が2015年4月に首相秘書官だった柳瀬唯夫氏(現経済産業審議官)と首相官邸で面会し、柳瀬氏が「本件は首相案件」と述べていたことを記録した文書が存在していたのだ。

 首相秘書官が首相の判断に関係なく勝手に発言するとは考えにくい。安倍首相の指示を受けたか、意向をくんでの発言と考えるのが自然だ。だから、首相の言に反して指示や関与は実際にはあった。そんな事情を示す証拠となり得る文書だ。

 政府が「入館記録は破棄されていて、今治市と愛媛県職員の訪問自体を確認できない」としてきたなかでの、記録文書の存在である。これで、事実の一端は確定するかと思いきや、柳瀬氏は「自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません」「私が外部の方に対して、この案件が首相案件になっているといった具体的な話をすることはあり得ません」とコメントを発表した。

 言葉尻をとらえて「あり得ないことを、やったのだろう」とも言いたくなるが、そこをグッとこらえて続けると、証拠となり得る文書を突きつけられても、「記憶する限り」との限定条件付きで面会の事実を否定することで、柳瀬氏もまたグレーゾーンに逃げ込んだように映る。

 現在、経済産業省の官僚ナンバー2の地位にある柳瀬氏なら、特区の意味も意義もよくご存じだろう。公益に資するまっとうな政策だったのなら、経緯を含めて正々堂々と国会でもどこでも述べることができるはずだ。

「語るに落ちる」という言葉があるが、柳瀬氏は「語らずに落ちて」いないか。語らないことで、政策の正当性への疑念を裏書きしてしまっている。グレーゾーンは柳瀬氏にとって安全地帯ではない。

上司の安倍首相に大きな責任

 柳瀬氏の言動も、無理からぬ面がある。上司である安倍首相の責任が大きいからだ。

 安倍首相は「(私に対して)嘘(うそ)つきという以上は、それは明確に私が嘘をついているという証拠を示していただかなければいけない」旨を主張する。また森友学園問題をめぐる論議でも「ないことを証明することは悪魔の証明」として、野党に「黒」を立証するよう迫るばかりで、自らグレーゾーンから脱しようとする姿勢を見せていないのだ(福田財務事務次官のセクハラ疑惑をめぐって、麻生太郎財務相が被害者側に対して示した態度と重なる)。

 安倍首相自身にこそ、「白」であることを証明すること、少なくとも証明しようとする姿勢が求められているにもかかわらず、である。問題をグレーゾーンにとどめている原因と責任は安倍首相にある。 ・・・ログインして読む
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筆者

山瀬一彦

山瀬一彦(やませ・かずひこ) 元朝日新聞論説副主幹・ジャーナリスト

1958年生まれ。1983年入社。経済部で通産省(現経済産業省)、大蔵省(現財務省)などを担当しワシントン特派員。デスクやエディターを長く勤め、be編集部編集長、オピニオン編集長、論説副主幹などを務めた。2016年4月からはジャーナリスト学校で文章制作技術の研究に従事、2018年1月末に退社。