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右と左はネットで憲法をどう論じているのか

議論の中心は9条と21条。各人のイデオロギーに従った感情的な意見がほとんど

中川淳一郎 ネットニュース編集者

 5月3日は憲法記念日だが、ネット上で「憲法」といえば、基本的には「9条」か「21条」が議論の中心となる。

 9条は、言わずと知れた、戦争放棄、戦力の不保持に関する規定。これは大抵の人が知っている。21条は、「表現の自由は憲法で保障されている」という言い方で語られるが、それが21条で定められていると知っている人がどれだけいるかと言えば、その割合はガクッと減る。

 9条が「アイコン」として日本国民に刷り込まれている現実を、あらためて感じる。

議論は「右VS左」に収斂

安倍晋三首相の9条改正案に沿い、戦力不保持の2項を維持して「自衛隊」を明記する方向で取りまとめる方針を決めた自民党の憲法改正推進本部=3月22日拡大安倍晋三首相の9条改正案に沿い、戦力不保持の2項を維持して「自衛隊」を明記する方向で取りまとめる方針を決めた自民党の憲法改正推進本部=3月22日

 それはさておき、9条に関するネットの議論は、基本的に「右VS左」に収斂(しゅうれん)される。他方、21条についてのネットの議論は、「右VS左」に加え、「過激フェミニストVSマニア&表現規制慎重派知識人&関連産業従事者」となる。後者の対立図式は、エロ本のコンビニでの陳列禁止を求めたり、レースクイーンを女性差別だと考えたりする「一部フェミニスト」を「左」が後押しし、「マニア&表現規制慎重派知識人&関連産業従事者」を「右」が後押しする傾向が見られる。

 こうした構図を踏まえ、本稿では、憲法をめぐるネット上の「右VS左」の状況について論じてみたい。

 なお、「表現の自由」については、児童ポルノ禁止法があるにもかかわらず、「児童ポルノも表現の自由である」とする意見が出るほか、「そうした性的志向を持つ者への差別である」といった声も出るが、このイシューはまた別の議論になるのと、私はこれについては詳しくないためここでは論じない。

熱い主張がない「右」

 まずは、憲法9条に対する「左」からの意見を見てみよう。

 「左」を先に書く理由は、どうやらネット上の「右」は、そもそも憲法に関してそれほど熱い主張があるというわけではないからだ。彼らは単に「左」や活動家のことが嫌いなので、「左」の言うことに異論を唱えたいと考えている。要は、興味はないけど、嫌いな人間を叩(たた)きたいから、憲法にも言及するわけだ。

 結局のところ、「右」は「左」の主張に反論する形になるので、先に「左」の意見を紹介する。

 あらかじめ断っておくが、以下に紹介するのは、「左」の特定の個人が具体的にそう言っているということではない。まとめると、こうなるというものだ。その後に記す「右」の意見も、さらに「憲法21条に関する左右の意見」も同様のものとお考えいただきたい。

 言うまでもないが、以下の意見は法解釈として必ずしも正しいわけではない。あくまでも市井の人々がネットに書き込むものである。

9条についての「左」「右」の意見

 まず、9条についての「左」の意見を列挙する。

◆9条は世界に誇るべきものであり、ノーベル賞を取るべきである
◆安倍政権は9条を改悪し、戦争ができる国に変えようとしている
◆9条を改悪した途端、危険な安倍政権は戦争を開始し、再びアジア各国に大いなる迷惑をかけることだろう
◆9条は先の大戦を反省する気持ちを具現化したものであり、これを改悪した場合、反省はあくまでもポーズであったと証明することになる
◆自衛隊に戦闘地域に行かせたり、戦闘行為に巻き込ませたりするのは9条違反であり、アメリカの帝国主義には反対すべきである
◆戦争というものの恐ろしさを知る高齢世代からすれば、9条改正反対するのは当たり前だし、まっとうな考えである

 次に9条に対する「右」の意見である。

◆護憲派は、9条があれば北朝鮮がミサイルを撃ってこないし、中国も攻めてこないと考える「お花畑脳」を持っている
※この意見に加え、ツイッターや5ちゃんねる(元2ちゃんねる)には漫画『北斗の拳』に登場する「無抵抗の村」のページをスキャンした画像を貼る。このページは、ガンジー風の村の指導者が侵略に来たラオウに対し「無抵抗は我われ弱者の自分を守るべき唯一の武器なのです 抵抗は相手の力を生みます 力は我われ弱い者からすべてを奪うでしょう」と述べ、ラオウから「この拳王には無抵抗は武器にはならぬ!」と恫喝(どうかつ)され殺される。要するに「力の前に憲法9条は無力」と漫画を使って説明したいのだ。
◆自国が軍隊を持つのは当たり前であり、そもそも9条のほうがおかしい
◆9条はGHQによって押し付けられた条文であり、改正するのが当然である
◆護憲派は「国防」の意識が欠如しており、無抵抗のまま中国や北朝鮮に侵略されるのを是とする売国奴の集団である
◆我々だって戦争を求めてはいないが、「何か」の時のために憲法を改正し、9条を改正し、専守防衛ではなく「やられる恐れがあるのであれば先にやれ」の考えを持たねば国が滅びてしまう
◆反日の左翼ジジイとババアが日本を崩壊に追い込むために、「憲法9条教」の普及に努めている

表現の自由に関する「左」「右」の意見

 続けて、表現の自由に関する「左」の意見を挙げよう。

◆ヘイトスピーチにまで「表現の自由」を適用させるわけにはいかない
◆「表現の自由」を盾に、「ヘイト本」や差別扇動的な書籍を発刊する出版社や、これらを販売する書店は糾弾されるべきである
◆エロ本の表紙などを「見ない権利」だってあるから、コンビニから撤去するのは妥当な判断であり、むしろ遅い。ドイツではエロ本なんて公共の場で見たことはない。(実際はあるが、「ない」という思い込みにもとづき発言)
◆「○○人を殺せ!」といったものにも表現の自由を主張するのならば、その「○○人」の人権侵害をすることを許すこととなり言語道断
◆デモの権利は憲法で認められているが、ヘイトスピーチをまき散らかすデモは決して許すわけにはいけない。これは表現の自由とは別問題

 最後に、表現の自由に関する「右」の意見である。

◆我々はヘイトスピーチなどはしていない。あくまでも正しい主張をしているだけで、安易にヘイトスピーチ認定し表現の自由を奪わないでほしい
◆左派がヘイトスピーチ認定したり、出版社や書店への営業妨害をしたりすることこそが、表現の自由を奪う行為である。本来なら表現の自由を認めるはずの左派が言論封殺をするとは、開いた口が塞がらない
◆我々はあくまでも日本を守るための主張を表現の自由の範囲で行っているだけである

見事なまでのかみ合わなさ

 改めて並べて見ると、見事なまでのかみ合わなさである。 ・・・ログインして読む
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筆者

中川淳一郎

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者

1973年生まれ。東京都生まれ。一橋大学商学部卒。97年、博報堂入社、CC局(コーポレートコミュニケーション局)配属、2001年退社。以後無職、フリーライター、フリー編集者を経て06年からネットニュース編集者。複数のサイトの編集にかかわる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』『バカざんまい』(ともに新潮新書)など。